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「司令、先の第4使徒との戦闘時におけるデータです」

「・・・」

「セルフ心理グラフのデータを。伊吹二尉の感情面に、2度に渡り、大きな兆候が現れています」

「シンクロ率も、それに合わせて向上しているな・・・」

「はい、第3使徒との戦闘データと比較しても、かなりの向上が見られます」

「了解だ。引き続きデータの採取と、作戦の進行を頼む、赤木博士」

「はい」

「・・・順調なようだな、碇」

「ああ」

 

EVANGELION MM

 

「先輩、あの、お話って?」

「マヤ、あなたに確認したい事があるの。座って頂戴」

「はい・・・」

第4使徒を倒した翌日。早朝から、マヤはリツコの個人用実験室に呼ばれた。普段なら、音はリツコがキーを打つ時の音くらい、という室内も、今はそれさえなく、シンと静まり返っていた。不自然な静寂と、リツコと2人きりという状況に、マヤは幾分緊張していた。

「確認したいのは、エヴァの事なの」

「はい」

足を組んで、椅子に座るリツコ。対して、マヤは両足をきちんと揃え、膝の上に両手を置いて座っている。背筋もピンと伸びて、リツコの言葉を聞き漏らすまいとする意志が見て取れる。

「過去2回の戦闘において、あなたと日向君は、見事な勝利をおさめたわ。よくがんばってくれたわね、マヤ」

「そんな・・・。それは、日向君がいたからで・・・」

マヤはリツコに誉められた嬉しさから、つい口元が緩んだ。

リツコは、一瞬、柔らかく微笑むと、本題に入る。

「その戦闘において、あなた達はかなり高いシンクロ率を、何度か出しているわ。特に、あなたの方に、その現象が顕著に現れている・・・」

「はい」

「それについて、関連が深いと思われるデータが、昨日の戦闘で記録されたの」

「えっ! 本当ですか!?」

「まずは、これを見て頂戴」

机上のモニタに、第4使徒との戦闘の映像が映し出される。

「ケースAよ」

それは、零号機が、右足に絡まる敵の鞭をつかみ、下に引き下ろす場面だった。

「この時のシンクロ率は44%。あの使徒の鞭はかなりのパワーを持っていたのに、この時は、零号機の方が勝っている・・・」

「・・・」

「そして、ケースB」

次に現れた映像は、初号機を受け止めるために、驚異的な速度で移動する場面だった。

「この時の移動速度は秒速140メートル。シンクロ率は、実に78%。これは『適格者予備』としては、まずありえない数値なのよ」

「はい・・・(その『予備』っていうの、なんとかならないかしら・・・)」

「そして、そのあと展開されたA.T.フィールドは、その直径が1キロメートルを軽く超えていた」

自分の事ながら、なに1つ実感のないマヤだった。あの時は、とにかく夢中だったのだ。

「これら、シンクロ率の over flow 現象が起きた際、同様に大きく変動している箇所が確認されたの」

「なんですか、それは・・・?」

「セルフ心理グラフ。感情面よ」

モニタの戦闘映像が、複雑な曲線に切り替わった。

パイロットの精神状態を表したグラフ、その2つの箇所を、リツコは指で示した。

「さっきのケースAはここ、ケースBはここ・・・。わかるわね? この2箇所が感情値の極大化を起こしている。かなりの集中度で、1つの事だけを考えている事がわかるわ・・・」

リツコがマヤを見据える。

「思い出して欲しいの、マヤ。あなたが、その時、なにを強く思っていたのか・・・」

マヤは困惑した。もちろんなにを考えていたかは覚えていた。しかし、それが正しい『返答』なのかが判断しかねた。あまりにも自明であったからだ。

「それは・・・、もちろん、使徒を倒す事です。それと、日向君がピンチだったので、助けなくちゃと・・・」

「そう。そうでしょうね・・・」

「?」

「では、どちらがトリガーなのか? どちらの思いが、より大きなシンクロ率を引き出しているのか? 現象時に考えていたのは、ただ1つ・・・」

リツコの目は、マヤを見据えたままだ。マヤはその目に捕えられ、身じろぎも出来ない。

「使徒を倒そうという意志、または使徒に対する怒りがトリガーである可能性は確かにあるわ。第3使徒との戦いではそれらしいデータも取れている。でもね・・・」

「・・・」

「今回の2つの状況が、特にそれらの感情を呼び起こすものであったか・・・。それなら、あなたが使徒のコアにナイフを突き刺した時こそ、最大値を示して然るべきなのに、それがない。なにより、ケースB、あなたが落下する日向君を助けたあの時には、もう使徒は彼に倒されていた。あなたはそれを知っていたはずね? なのに、シンクロ率はこちらの方が格段に高くなっている・・・。これは、使徒に対する以外の感情が、より高いシンクロ率を引き出すトリガーである可能性を、強く示している」

「・・・」

「では、もう一方。日向君に深刻な生命的危機が訪れた際の、それを救おうとする意志、こちらをトリガーとしてみたならばどうか? こちらの方が、深刻度の高いケースBにおいて、より高いシンクロ率を発揮しているという点で、状況にマッチしている」

「あ、あの・・・」

「つまり、率直に言えば、あなたの日向君を思う気持ちの強さがトリガーとなっている可能性が、極めて高いという事なの。グラフのデータが、それを示している・・・」

「そんな・・・。そんな事、言われても・・・」

「もちろん、あくまで可能性の段階でしかないし、もし、この説が正しかったとしても、その気持ちが、恋愛感情と同義である、などと単純に言う事も出来ない。あなたは、とても優しい人ですものね・・・」

「いえ、そんな・・・」

真っ赤になるマヤ。これは、もちろん、恋愛感情とは違う。

「ただ・・・、もし他の人が同じ状況に陥ったとしても、同様に強く思えるのか、それとも・・・、日向君だからこそなのか・・・、それが問題なのよ」

「・・・」

「マヤ・・・。よく思い出してみて、あの時の事を。そして、考えてみて、あなたが日向君に対して感じている気持ちを・・・」

「・・・」

マヤは考えていた。しかし、なにから考えればよいのかが、わからなかった。

マコトに対する気持ち。

もちろん、嫌いなはずはない。むしろ、好きだった。でも、それが他の人と比べてどうなのか、などとは考えた事もなかったし、また、考えるべきものでもないはずだ。

それを考えろとリツコは言う。

そして、それは、明らかになれば、人に知られる事となるのだ。

そんな事が・・・

リツコが、ふとマヤから目を離す。マヤは、催眠術が解かれたかのように、我に返った。

「もちろん、答えがすぐ出せるはずもないでしょう。でも、これは大事な事よ。あなた達の今後の戦いを左右するのだから」

モニタのグラフに目を向けながら、リツコが言う。

答えはすでに出ていた。しかし、それをリツコがマヤに教えるわけにはいかない。他人から教わるのではなく、マヤが自分自身で気付かなければならないのだ。こんな回りくどい事をしているのも、そのためだ。

「あの・・・、この事は日向君にも話をされてるんですか?」

マヤが、恐る恐る尋ねた。

マコトの想いが、現在、誰に向けられているのか、リツコも知っていた。今はまだ、話す時期ではない。

「いいえ、日向君の場合、まだ、あなたほど十分なデータが揃っていないの。確実な事がわかり次第、伝えるつもりよ。だから、彼にはまだ、なにも言わないで欲しいの」

「そうですか・・・、わかりました」

マヤはホッとしていた。自分で自分の気持ちがわからないうちに、マコトに知られるのは嫌だった。

「話は以上よ。ごめんなさい、早朝から呼び出して。午後から、日向君と新横須賀よね? こんな時だから、ゆっくり羽を伸ばすといいわ」

「はい・・・、ありがとうございます・・・」

マヤはのろのろと椅子から立ち、ドアへと向かう。

(今の先輩の話は、どういう事? ううん、それはわかってる。知りたいのは、実際に、自分の気持ちが『そう』なのかという事・・・。それは、考えてわかるものなの?)

ドアが開いた瞬間、数名の女子職員が「キャ〜!」と叫んで、バタバタと逃げて行くのが見えた。

彼女達は、なぜか、カメラやMDレコーダを持っていた。レコーダにつながっていたのは、まさか、壁の向こうの音を探る特殊マイクではなかろうか。

マヤの額に#が、幾つも浮かんだ。

「だから・・・、ちがうって・・・」

 

第7話

MUSE

 

午後1時13分。マヤとマコトは、新横須賀へと来ていた。港で、この日、来日する惣流・アスカ・ラングレーとエヴァ弐号機を迎える手はずなのだ。

そして今、2人は港近くの海水浴場に立っている。

「いやぁ、海はいいなぁ! でっかくってさ!」

「風も吹いてて、気持ちがいいね!」

もちろん、待ち合わせは港の方なのだが、アスカの到着予定時刻は午後5時で、まだ大分時間があるので、寄ったのだ。これは、続いた戦闘の疲れを癒すため、早めに出て、羽を伸ばして来なさいとの、冬月副司令直々の命によるものだった。

常夏の日本の、ましてや平日の海であれば、それほど人はおらず、おかげで、ごみもなく、水もきれいだった。

「さてと、なにしろ、副司令直々のお達しだからね、精一杯、羽を伸ばさせてもらおうよ」

「ええ、そうしましょ!」

そして、2人は靴を脱ぎ、海へと向かった。

一応、ネルフは非公開組織なので、制服で出歩くはずもないが、あとに仕事が控えているので、それなりのスーツ姿の2人だった。水着はあっても、昨日の今日で、傷を塩水につけるわけにはいかず、なにより、マコトにすれば、マヤをまた泣かせてしまうのでは、という危惧があり、マヤはマヤで、また泣いてしまうのでは、という危惧があった。

そんなわけで、素足で波打ち際を、ただぶらぶらと歩いて時を過ごした。それだけであっても、海の水の冷たさや、波にさらわれる砂が足の裏をくすぐる感触、そして潮の香り・・・。それらが、2人の気持ちを十分になごませてくれた。

「水が冷たい・・・」

「うん、気持ちいいね・・・」

 


 

しばらく、波と戯れたのち、休憩を取るため、2人は、砂浜に置かれた、パラソル付きのテーブルに座った。

「ふうっ、少しはしゃぎすぎ。スカート、濡れちゃった」

「いやぁ、俺も。すそがびしゃびしゃだ」

もちろん、マコトはスカートが濡れたわけではない。

「でも、楽しかったね」

「うん、一気にストレス解消出来たみたいだ」

吹く風が涼しい。こんな時だからか、それだけでうれしくなる。

それから、しばらく2人は、取り止めのない話をしたり、海を眺めて過ごした。

エヴァや仕事を介さずに、これだけ長い時間を2人で共有するのは、初めての事だった。

特になにをするでもなく、ただ淡々と過ぎていく・・・、それでも、記憶から薄れる事はなく、のちに思い出せば、そのたび笑みが浮かぶ・・・、そんな時間だった。

 

「こんなにのんびりするのって、何年ぶりだろうなぁ・・・」

「本当ね。まともな休暇なんて、全然、取れないし」

「たまに、休みがあっても、1日中寝てるから、気が付くと、次の日の朝になってるし」

「ふふっ、そうね」

「伊吹さんも、休みはずっと寝てるだけ?」

「ええ、さすがに1日中じゃあないけど。それに、残った時間は、つい部屋の掃除なんかしちゃって・・・」

「部屋の掃除かぁ。伊吹さんってきれい好きだもんね」

「きれい好きっていうか、神経質っていうか・・・。ちょっとほこりがたまってても気になっちゃうの。それで、最初は汚れの目立つ所だけにしようって思ってるんだけど、そこがきれいになると、他の汚れがどうしても気になってきて・・・。それで、結局、部屋中掃除しちゃうの」

「うん、うん。それって、よくわかるよ。一度始めちゃうと、どうしてもそうなるよね」

「でしょ?」

「うん。だから、俺は掃除しない事にしてるんだ。そうなるの、わかってるから」

「それって、賢明・・・・・・とは、言えないわよね、やっぱり」

「はは、やっぱり?」

 

「・・・・・・」

「・・・」

「・・・・・・」

「ふふっ」

「え、なに?」

「日向君、またぼんやりしてる」

「え、またって?」

「ほら、日向君って、よく休憩時間にぼんやりと外を眺めてたりするじゃない?」

「ああ、うん、そうだね」

「その時の表情がいつも穏やかで・・・」

「(あぁ、この人には悩みがないのね・・・)なんて?」

「そんな事ないけど・・・、(幸せそうだなぁ)って・・・」

「・・・問題です、伊吹君。今の2つの違いについて述べなさい」

「・・・わかりません、先生」

「伊吹君・・・、笑いながら答えないように」

「ふふっ、先生だって、笑ってます」

 

「でも、自分で言うのもなんだけど、ホントに、ぼんやりしてるのが好きなんだよなぁ。あきれるくらいに」

「そうみたいね」

「特に、子供の頃なんか、空の雲を眺めるのが好きで、そりゃもう、暇さえあれば、ずーっと眺めてた」

「ふうん」

「なんか、雲って、人が乗れそうな感じに見えない? それで、自分も雲に乗って、そのまま空を漂っている・・・。もちろん、本気で信じてるわけじゃないよ、そんな錯覚を覚えるってヤツ・・・。でも、雲をじっと見てると、そんな感じがして、なんかわくわくしちゃって・・・」

笑顔で話すマコトを見て、マヤはおかしくなった。

「子供の頃なんて・・・。それって、今でもそうなんでしょ?」

マヤの言葉に、マコトが照れ笑いで返す。

「む、鋭い指摘。赤木博士みたい」

「えっ?」

「やっぱり、長く一緒にいると、似てくるのかな?」

「・・・」

リツコの名を耳にして、マヤは今朝の事を思い出した。

『考えてみて、あなたが日向君に対して感じている気持ちを・・・』

つい数時間前の言葉なのに、今は、それを聞いた時よりも、強く胸に響いてくる。

(日向君をどう思っているかなんて・・・、そんな事、わからない・・・。恋愛感情なんて・・・、違う、と、思う・・・。違うんだから・・・。だから・・・、顔が赤くなるなんて事、なくていいの・・・。なくていいのに・・・)

「あれ、伊吹さん、顔、赤いよ。日焼けしちゃったのかな?」

「え!? ううん! そんな事ない・・・。大丈夫・・・」

「そう?」

「ええ・・・、あの、私、飲み物買って来るね。・・・のどかわいちゃった」

「あ、俺もい・・・って、伊吹さん? ・・・なんだろ? あんなに全速力で・・・」

 


 

「はぁ、はぁ、はぁ」

マコトが見えなくなったところで、マヤは大きく深呼吸をした。なかなか顔の火照りと動悸が治まらないのは、全速力で走ったからだ。そう思う事にした。

「馬鹿みたい。変に意識しちゃって・・・」

目的のコンビニエンスストアまでは、少し距離があった。マヤは歩きながら考える。

(自分でも、感じてないわけじゃなかった・・・。エヴァに乗る事になるずっと前から・・・、彼が穏やかな目で外を眺める様子は、私の好きな風景の1つだったし・・・、せっかく高い能力があるのに、与えられた仕事しかしようとしない彼に、不思議なくらい、じれったい思いを持った事もたびたびで・・・)

「でも、それは・・・」

(仕事仲間だから・・・、友達だからじゃないの?)

「・・・・・・そう」

(日向君は友達。だから・・・、大事な人だった・・・)

マヤはあまり人付き合いに積極的な方ではなく、マコトとシゲル、そして、あとは数えるほどしか友達と呼べる者はいない。

何事にも慎重なマヤだったが、人間関係には特にその傾向が強かった。それゆえ、積極的に話しかけてくるシゲルやその他数名はともかく、マコトとは、普段からあまり接する機会を持ち得なかった。数えるほどの会話しか交わさず、その内容も、ほとんどが仕事に関するものであり、マコトがどういう人間なのかを深く知る事がないままでいた。

にもかかわらず、マヤはマコトと妙に馬が合ったのだ。それほど強い衝動ではないにせよ、マコトの事を知りたい、マコトともっと話す時間を持ちたいと思い続けていた。これは、彼女としては、かなり珍しい事だった。

「そして・・・」

2人はエヴァに乗る事になり、マヤはマコトの別の一面を見た。激しい気性と固い意志で、使徒に立ち向かう、それまで表に出る事のなかったマコトの姿を見たのだ。

(使徒を倒すために、あんなにがんばって・・・、痛みに耐えて・・・、そして、私を励ましてくれる・・・。私が、エヴァに乗る事を決意出来たのも、日向君がいたから・・・、日向君の言葉があったから・・・)

『2人で協力し合えば、大丈夫だよ!』

(戦っていて、何度あの言葉に助けられたか知れない・・・)

「そう・・・」

(今はもう、日向君は、ただの友達ではありえない。もっと深くつながっている・・・。お互いが相手の命を支えてる、運命共同体だもの・・・)

「でも・・・」

(それが『好き』とか・・・、『愛してる』っていう事になるの? やっぱり、わからないわ・・・)

考え過ぎで、かえって混乱しているマヤだった。店が近くに見えている。

(そう。そうなんだわ・・・。つまり、日向君はあくまで仕事仲間なんだ。だけど、あまりにも重要な使命ですもの、それだけ心がつながっていないとダメっていう事なのよ。恋愛感情とは違う次元の信頼関係なんだわ。生命の危機に直面すると、種族保存の本能から、強く異性を求めるようになるって言うけど、きっとそんな感じなのよ。だから、恋とか愛とかとは違うのよ。なんだ・・・、はは・・・、勘違いするところだったわ。いけない、いけない)

『取りあえず』の結論で、手を打ったようだが、

「伊吹さん!」

「きゃっ!」

「あ、ごめん。驚かせちゃって」

「日向君!?」

「俺も、なんか買おうと思ってさ」

「そ、そうなの・・・」

2人は並んで歩き出す。マヤはうつむきながら、マコトの外へと視線を向ける。

「・・・」

「・・・」

「・・・ねぇ、伊吹さん?」

「な、なんでしょう?」

「もしかして、熱とかない? 前より顔が赤くなってるよ」

「え? そんな事・・・、ないわよ・・・」

「そう? ・・・ちょっと、ごめん」

マコトは熱を計ろうと、手をマヤの額に近付ける。

「え? きゃ〜!!」

「わあっ! なんだよ、急に!?」

「ご、ごめんなさい! でも、本当に何でもないの。ごめんなさい! 本当なの!」

「うん、わかった。わかったから、もう、叫ぶのはナシ」

「ええ、本当にごめんなさい。取りあえず、お店に行きましょう?」

「うん・・・」

 

マコトはマヤの態度に首をかしげていた。

(伊吹さんて、もしかして男性恐怖症なのかな? でも、今までそんな様子は、全然、見せなかったし、第一、あの時だって・・・)

マコトの脳裏に、自分の肩で泣くマヤや、背中の傷に触れるマヤの姿が浮かんだ。

(触れるのはよくても、触れられるのは苦手な男性恐怖症? ・・・それとも、くすぐったがり屋なのかな? でも、額がくすぐったいってのは、よっぽど重症だよなぁ・・・)

変な方向に思考が進んでいるマコトだったが、マヤの涙を思い浮かべた自分の顔が、少し赤くなっているのに気付いていれば、マヤの症状の原因にも思い当たったかもしれない。

 

首をかしげて歩くマコトの隣で、マヤは頭を抱えていた。

(あぁ! なにを叫んでるのよ、私は!)

(どうしよう! 日向君に変に思われたら・・・)

(・・・でも・・・)

(確かに変だもの、今の私・・・)

マヤは、ついさっき出したばかりの結論が、いきなり崩壊を始めているのを感じていた。

(やっぱり、私・・・、『そう』なのかな・・・)

 

 

第7話  MUSE  終わり

 


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