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「The Hermit」 第1話に戻る  第2話に戻る  第3話に戻る  第4話に戻る  


 

かつて、月は死んだ星だと考えられていた。

火山活動は10億年も前に停止しており、すでに中心まで冷え固まった状態であろう、と。

しかし、のちの調査と計算により、地下約1300キロ以深の下部マントルにおいて、一部で1300〜1900℃の柔らかく溶けた岩石の層が存在している事がわかった。

月が現在まで熱活動を維持してこられたのは、パートナーからの力による。

地球の引力の影響を受け、月の直径はおよそ27日周期で最大数十センチの伸縮をくり返している。その際、下部マントルの柔らかい層では摩擦が起こり、高い熱を発生(潮汐加熱)させるのだ。

月によって、地球に生命が生まれた。

地球によって、月に活動が生まれた。

死んでなどいない。

月は、まだ生きている。

そして、月に降り立つものも、また。

 

 

無音の闇に閃光が弾ける。

黒の空に出現する白の巨体。

静かな世界とは対照的に、宇宙から降り注いだ無数の微小粒子が月面に衝突して出来た、塵の層「レゴリス」が、着地したアダムの足元で盛大に舞い上がった。

塵は、いつまでも宙を漂い続ける。

地球の1/6の重力の中、とはいえそれが救いになるでもなく、アダムは鈍重な体を認識していた。

エネルギーは、もうほとんど残っていない。

高速での移動に、限界まで消費した。

それに、ダメージを受けなかったわけでもない。

地球からの離脱の際、ゆく手を阻むエヴァ弐号機のA.T.フィールドに対抗すべく展開した、アンチA.T.フィールド。

A.T.フィールドをA.T.フィールドで破るには、相手を上回るエネルギーを発揮しなければならず、あの場合においては愚行でしかなかった。

そのため、同程度のエネルギー量で済む、アンチA.T.フィールドによる中和を実行したのだが、それでも、ゆえに生じるダメージがあった。

アンチA.T.フィールドはデストルドー(死への欲望)によって発生する。

セカンドインパクトの際、ロンギヌスの槍によって自身のデストルドーを増大させられたアダムは、我が身を卵へと還元するだけでなく、地球上全ての生命をL.C.L.化するに足るほどの、強大なアンチA.T.フィールドを発生させた。

もちろん、あの時とは比較にならない程度であっても、アンチA.T.フィールドを発生させれば、デストルドーがフィードバックされるため、少なからずアダム自身も蝕まれる事となる。

それでも、月まで移動するエネルギーはなんとしても保持しなければならなかった。

死中に活を見出すべく、肉を切らせて骨を断つ。

その結果として、アダムはこの地へとたどり着いた。

だが、全てはこれから。

必要なものを得るため、ここに来た。

そして、もうじき、敵はやって来るだろう。

緩慢ながらも、アダムは歩き始めた。

充分なコントロールが出来ず、目指す着地ポイントからは外れてしまったが、目的の場所まで、歩いていけない距離ではない。

ゆっくりと、しかし、足を止める事なく、アダムは歩き続けた。

月には重力の強い領域が数ヶ所存在する。

この、「マス・コンセントレーション(mass concentration)=略称:マスコン(mascon)」と呼ばれる領域は、円形をした「海(地中から玄武岩質のマグマが噴き出して出来た平原)」に多く存在し、その地下には巨大かつ高密度の物質が埋まっていると考えられてきた。

アダムが向かうは、マスコンの「海」の中でも特に大きな、月の表側にある「晴れの海」と「雨の海」、その境界。

地中に存在している「生命の種」が発する巨大エネルギー、その余波が生み出した痕跡を両側に望む場所。

コーカサス山脈。

地球にある山脈にちなんで名づけられた。

「コーカサス」とは、ギリシア神話において、神の知恵である「火」を人間に与えたプロメテウスが、大神ゼウスの怒りを買い、鎖で縛られた場所である。

だが、ここでリリスを捕らえているものは、神ではない。

アダムは山脈のふもとで足を止め、両の膝と手を地面に置いた。

腕が、足が、つけ根のあたりまで沈んでいく。

地中深くへと、アダムは感覚を伸ばしていった。

目で見るのではなく、耳で聞くのではなく、匂いを嗅ぐのでも、触わるのでもない。

視覚や聴覚などと限定するのではなく、全ての感覚を動員し、集約させて、探っていく。

求めるものへと、深く、伸ばす。

そして、しばし進んだ先に、それはあった。

計画実行のための、起死回生の源が。

 

 

駆けるよ 2014年!記念SS

「The Hermit」 第5話

 

 

“ レイ!? レイ、無事なの!? アスカさんは!? ”

“ 私達は大丈夫です。アスカは量子状態化の作業に入っていて、もうまもなく完了します ”

“ そう、良かった・・・ ”

安堵するユイだったが、次の瞬間には、心中に不穏な感覚が甦える。

“ ・・・リリス、いえ、アダムなのね・・・? ”

“ ええ ”

水星を飛び立ち、地球へと向かっているエヴァ初号機。

コア内部において、くり返し弐号機との接続を試みたユイであったが、この時、ようやくレイと繋がった。

“ 状況は「圧縮」で ”

“ ええ、お願い ”

そして、言葉ではない、図形などのイメージ化された情報によって、状況がレイからユイへと瞬時に伝えられる。

活動を停止したリリスの体を乗っ取り、L.C.L.となった人々の魂を奪い、現在、アダムは月にいる。

目的は、月を作り出し、賢者の石の材料である「水銀」を霊的純化する、そのためにあった膨大なエネルギー、「生命の種」。

残り少ないエネルギーを補い、胎児の状態から成長し、リリスの体を、力を、自分のものとする。

地球での、アダムを阻止するための戦いは、弐号機の敗北に終わった。

量産機の執拗な妨害、そして、なによりもアダムとの力量差により、弐号機は振り切られ、月へと飛ぶを許してしまった。

復活して、アダムがなにをしようとしているのかは、不明のまま。

最も有力な推測は、生まれながらに与えられた存在理由。

使徒を生み出す事。

数十億もの、人の魂を核として。

“ レイ、力を貸して ”

“ はい ”

“ シンジ ”

“ なに? ”

それまで移動に専念していたシンジをユイは呼び、レイからの情報を「圧縮」で伝える。

“ わかった ”

シンジとユイはレイと繋がり、連携を強めた。

アダムの動きを即座に察知出来るよう、レイの知覚を共有する。

二人に届いたアダムは、まだ月にいた。

初号機は、すでに月まで3分を切る距離まで接近している。

しかし、この3分。

この時間が勝敗を決してしまうかもしれない。

アダムが「生命の種」のエネルギーを得たのち、もしも使徒を生み出すべく地球へ戻ったとしたら、弐号機だけではあまりにも不利だ。

先の戦闘でも、あっけなくA.T.フィールドが破られてしまった。

弐号機本体も、今度は侵蝕されてしまう危険性が高い。

だから、少しでも早く、初号機を到着させなければ。

レイの力を得て、初号機の移動を加速。

光速の45%を、さらに超える。

アスカが繋がれば、さらに加速出来るのだが、量子状態化の他に、彼女にはもう1つの作業が控えていた。

戦いに備え、弐号機の防御を少しでも堅固にしておかなければならない。

そのために必要なのが、ロンギヌスの槍だ。

初号機が持つものとは別の、リリスの「黒き月」にあった、もう1本の槍。

槍は単独でアンチA.T.フィールドを発生させる事が出来るので、アスカやレイがデストルドーによるダメージを受けずに済むだけでなく、弐号機のA.T.フィールドとの同時展開が可能となる。

だが、これで敵との差が縮まるとは言いがたい。

アダム単体では相反するフィールドを同時に展開出来ない。しかし、イスラフェルの力で分離してしまえば、それも可能となる。

相手は強大。

使徒の力に長けている。

ならばこそ、入念に備えなければ。

勝つため、そして、守り抜くために。

 

 


 

 

アダムは地中深くにあった「生命の種」へとアクセスし、状態を確認した。

エネルギーは必要な量がまだ残っていた。

これだけあれば、戦える。

月の「生命の種」は、アダムやリリス、あるいはロンギヌスの槍とは違い、「体」というものを持たない。必要がなかったからだ。

意志もなく、プログラムの通りに働く、エネルギーだけの存在。

魂なきものであれば、たやすく同化出来る。

それに、「種」のすべき仕事は、すでに完了していた。

月の作成、地球環境の調整、そして、「水銀」の霊的純化と弐号機への譲渡。

地球にて、アダムがリリスの体を乗っ取り、復活の機会をうかがっている中、初号機と弐号機は宇宙へと飛び立った。アダムはひそかに2体の動きをサーチし、弐号機が到着した月に別の「生命の種」が存在する事、そして、それがもうじき役目を終えようとしている事を知った。

だからこそ、エヴァが事を済ませるまで、息を潜めて待っていたのだ。

ここから先のアダムの行動は、月の「種」の使命を阻害するものではなく、第一始祖民族の意図に反した行動が出来ないよう課せられていたプロテクトにも抵触しない。

アダムは「生命の種」を呼び寄せると、自分と同化するよう操作した。

ほどなく、全身に光が戻っていく。

それまでがまるで嘘のように、体中に力がみなぎる。

胎児だったアダムの本体が、エネルギーを得て成長を始める。

借り物だったリリスの体を蘇生し、自身と融合、その主導権を掌握する。

充足の発露として、巨大化する体。

これまでもエヴァの5倍を上回っていた全長は、さらに大きさを増した。

しかし、すぐさま収縮し、エヴァよりわずかに上回る程度になる。

2体を相手にするのなら、的を小さく、小回りが利くように。

なによりも、ロンギヌスの槍、充分な警戒が必要だ。

接近する気配を感じ、アダムは上空を見上げた。

準備は完了した。

あとは、始まりを待つだけだ。

 

 


 

 

(もうすぐだ、もうすぐ着く)

シンジは心の中で唱え続けていた。

地球のレイと繋がり、アダムの動向は感知出来ている。

今のところ、地球に移動しようとする様子はない。

しかし、いつ、なにが起こるかわかりはしない。

一刻も早く、月に到着しなければ。

(いけるっ! いけっ!)

宇宙を飛びながら、シンジの心を様々な感情が去来していた。

恐れや不安はもちろんの事。

しかし、それ以外に、不思議な高揚が少なからずあった。

母ユイに加え、レイとの連携により、初号機の移動速度はさらにアップした。

それだけではない、自身の内側から力が湧いてくるような感覚がある。

初号機を包んでいる光。

拘束具の役割を担っていた特殊装甲から解放され、身の内の力が「光の衣」となって全身から発せられている。

その光が、レイと繋がった事で輝きを増していた。

アスカも戦うための準備を進めている。

勝てる。

皆で力を合わせれば。

(やってやる!)

シンジの視覚に月が映っている。

もう、あと少しで。

 

 


 

 

L.C.L.を失い、青へと戻った海。

戦いの場となった氷の平原は、元の海水へと融解し、その中をガギエルの力で水棲型に変化した弐号機が底深く潜っていく。

“ どこ・・・? ”

量子状態化を済ませたアスカは、続けてロンギヌスの槍を探す作業に移った。

あまり時間はかけられない。

なら、少しでも可能性の高い場所から。

リリスの「黒き月」にあった槍。

ゼーレやネルフが見つけられなかったのは、なぜか。

それは、場所の特定が出来なかった(死海文書に記述がなかった? それとも、記述された場所になかった?)のか、あるいは、回収に行けない場所にあったのか。

もし地球にあるのだとすれば、回収が出来ない場所、それは海底である可能性が高い。

深海は、宇宙よりもはるかに遠い。

一番の問題となるのは、やはり、水圧である。

地上と宇宙の気圧差が1気圧なのに対し、海中では10メートルごとに1気圧増え、100メートル潜っただけで10気圧にもなる。

当時、たとえネルフがエヴァを耐熱・耐圧仕様のD型装備で潜らせたとしても、2000メートル程度が限界であったろう。

事実、浅間山火口における第8使徒サンダルフォン捕獲作戦の際には、溶岩内1480メートルで限界深度を超えている。

仮に、槍がエヴァの潜行可能な深度に存在していたとしても、ただ潜れば良いのではなく、巨大なそれを探し出し、持ち帰らなければならない。

電力供給のためにアンビリカルケーブルを接続していては行動範囲が著しく限定されてしまうし、内部電源では数分しか活動出来ない。

あの頃のエヴァ、なによりパイロットにとっては、到底不可能なミッションであった。

そう、あの頃の、なら。

“ ・・・ ”

弐号機は水面下5000メートル超の深海に到達した。

「黒き月」が埋まっていた箱根を南東に、伊豆・小笠原海溝を通過し、世界で最も深い、マリワナ海溝へ。

気圧は500気圧、1平方センチあたりに500キロの重さがかかった状態であり、人間の細胞ならすでに変形している圧力だ。

それでも、さらに深くへ進む。

槍を呼び寄せるためには、槍と意識を通わせる事が必要なため、「心の壁」であるA.T.フィールドをシールドには使えない。

しかし、問題はない。

今の弐号機は「光の衣」によって守られていた。

内なるものの意志を受け、輝く光。

“ ・・・ ”

量子状態のアスカは、感覚を研ぎ澄まし、槍の位置を探った。

レイの伝えるところによると、意識で繋がれば、槍は呼んだ者のもとへと自らやって来るはず。

(って言われても・・・)

輝きを放つ弐号機ではあったが、その中でアスカはわずかな戸惑いを禁じ得なかった。

少しでも近づけば反応があるかもと思い、こんな深くまで潜ってみたのだが、どうにも手ごたえを感じない。

月で「水銀」を採取した時の要領で、広く感覚をめぐらせてみる。

(って言っても・・・)

あの時は、レイやシンジとの連携に集中している内、いつのまにか作業が終わってしまっていて、実際のところ、要領などと呼べるほどの覚えもない。

“ 槍・・・、ロンギヌスの槍・・・ ”

とにかく、槍の形をイメージしてみるアスカ。

アダムの槍と同じものと思って良いのだろう。

記憶の中にある槍は、サードインパクト前の対量産機戦で、弐号機に向かって飛んで来たもの。

量産機の持っていたコピーだが、弐号機の頭部に突き刺さった、あの時の光景。

そこからは、内部電源が切れて動けなくなるわ、数体の量産機に食いちぎられるわ・・・。

“ アスカ、あまりムカムカしないで。水圧で潰れるわよ ”

“ わ、わかってるわよ・・・ ”

心が乱れれば、心の力とシンクロしている「光の衣」にも影響してしまう。

“ ええっと、槍・・・、槍・・・、槍・・・ ”

とりあえず、よけいなシーンは極力排除するアスカ。

しかし、いくら念じても、なかなか相手からの返事がない。

“ 槍・・・、槍・・・、や〜り〜・・・ ”

“ ・・・ ”

アスカ同様、レイも強まる焦燥を抑えるのに苦慮していた。

リミットが迫っている。

すでにアダムはエネルギーを得た。

そして、もう間もなく、初号機が月に着く。

 

 


 

 

上空において、見上げる顔を視覚に捉える。

量子状態でなかったら、シンジは強く歯噛みをし、両のこぶしを握りしめていただろう。

この感情は、その強さは、いったいどこから来るのか。

踏みにじられる事への、こんなにも怒りが。

使徒を生み出した存在。

強いられた、戦いの日々。

戦いの中で失った、数え切れないほどのもの。

自分も、みんなも、誰もが望まず、誰もが奪われた。

なのに、今再び。

綾波が考えるように、もしも、新たな使徒を生み出そうとしているのなら・・・。

そのために、人の魂を使おうというのなら・・・。

“ シンジ ”

“ うん ”

ユイの呼びかけに、わかっている、と返す。

嫌でも感じる。

「生命の種」から強大なエネルギーを得たアダム。

レイの知覚を通して、体が縮小するのを見たが、それは戦いに備えての姿なのだろう事がうかがえた。

身じろぎもせず、初号機を見据えている。

全身が、力を誇示するように、白い光を放っている。

予想していた事だが、思考は強力にブロックされており、ユイの力でも読み取れない。

今のアダムの力量がどれほどのものか、行動の目的がなんなのか、全てが定かでない以上、万全を期してかからなければならない。

そのためにも、弐号機の協力が不可欠だ。

連携により相互に力を増幅させ、1体がA.T.フィールドでアダムを拘束、そして、もう1体がロンギヌスの槍を刺す。

槍からのアンチA.T.フィールドをアダムの体内で発生させる。

魂を持たない「生命の種」であれば、それで活動を停止させる事が出来る。

ただし、細心の注意が必要だ。

槍は刺さった瞬間にはアダムと融合するため、傷口からL.C.L.が漏れ出る事はない。

だが、うかつに刺して、傷口を大きく広げてしまったら、ふさがるまでの間になんらかの被害が及ぶ恐れがある。

傷口は最小限に、そのためにも緻密な操作が必要になる。

だからこそ、連携で力を増幅させつつ、役割を分担し、各自が専念して事にあたらなければ。

--- だったら、僕らが槍を ---

月へ移動する間の、「圧縮」によるやり取りにおいて、シンジはユイにそう申し出た。

弐号機を危険な目には合わせられない。弐号機よりも力で勝る初号機の方が、アダムから反撃があった場合でも耐えられるはず。

しかし、繋がっていたレイが、これを却下する。

--- 弐号機にアダムは拘束出来ないわ。初号機との連携で力を強めたとしても、エネルギーを得て成長したアダムを抑えられるとは思えない ---

--- う、うん・・・ ---

理屈では承知しても、懸念をぬぐい切れないシンジ。

--- 私達なら大丈夫よ、ありがとう ---

シンジの思いを受け取りながら、レイは伝えた。

自分とて、いや、アスカも、思いは同じなのだ。

だからこそ、自分達がしなければならない。

大切な人を、失わないために。

そして、少しでも備えを固めるために必要な、もう1本の槍。

アダムの攻撃から身を守るには、A.T.フィールドとアンチA.T.フィールドを同時に展開出来た方が良い。

エヴァ本体がアンチA.T.フィールドを展開した場合、デストルドーのフィードバックにより諸刃の剣となってしまう。

初号機で月に到着すると、すぐにシンジは地球のレイに状況を尋ねた。

--- 綾波、アスカは? 槍は見つかった? ---

--- それが、まだ ---

--- 見つかんないっ!! ---

--- わっ!? ---

アスカの強烈な意識が飛び込んできて、シンジの意識はグラグラ揺れた。

--- さっきからずっと念じてんのに、ちっともウンともスンともじゃない! どうなってんのよ、これ!? ---

--- 今のアスカなら出来る、って思ったのに・・・ ---

--- ムキー! ---

人類が正当な主になったとはいえ、槍の機能を充分にコントロール出来るほど、アスカも扱いが身についているわけではなかった。

--- ど、どうなんだろう、地球にはないって事なのかな、やっぱり ---

とりあえずフォローのシンジ。

だが、その可能性は充分にある。

「黒き月」を運んだ隕石は、地球に衝突し、今は月の一部となっている。

もしも、なんらかの理由により、槍が紛れてしまっていたのなら。

--- じゃあ、私がこっちで探して、ってわけにはっ! ---

--- !? ---

ユイから届いた危機を受け、シンジも急いで反応した。

間一髪で、襲撃をかわす。

気配も感じさせない速度で、アダムは初号機に接近し、すぐ脇を通過して行った。

--- くっ! ---

--- 注意して! ---

瞬時に方向を転換し、再び初号機へと突進するアダム。

“ 碇君!! ” “ シンジ!? ” 

二人の呼びかけに答える余裕もない。

シンジは、超高速で向かい来る敵に対し、全感覚で身構えた。

身を守るのはもちろん、ロンギヌスの槍も決して奪われてはならない。

リリスの槍が見つかっていない以上、この槍こそが頼みの綱だ。

アダムの左手が、槍を持つ右腕へと迫る。

瞬時に後方へ動く初号機。

寸前でよけられながらも、アダムは進みを止めず、その左手は、本来の目的であった初号機の胸部、コアのある場所に押し当てられた。

手がわずかに胸の中へと沈み込む。

“ あっ! ”

“ 冷静に! 心を乱しては駄目! ”

“ う、くっ! ”

かろうじて心を保つと、シンジは防御を強化した。

初号機の体を包む「光の衣」が輝きを強め、侵蝕に抵抗する。

ユイが右足でアダムの体を押し飛ばすと、すんでのところで左手から逃れた。

間髪入れず、ユイは巨大なA.T.フィールドでアダムの周囲に「壁」を作り、拘束を試みる。

シンジも即座に連携するが、数秒もたたずに、「壁」はアダムのA.T.フィールドによって破られてしまった。

初号機を上回る、アダムの力。

いや、神に等しい力を持ちながら、使いこなせずにいるがゆえの不利。

それでも、拘束には失敗したが、初号機はアダムとの距離をあける事が出来た。

“ ふう、やっぱり手ごわいわね ”

緊張をほぐそうと、この場に似つかわしくないトーンでユイが言う。

しかし、本当に危なかったと、シンジは自分をいましめる。

奪われてはならないと、意識が槍へと傾いてしまったせいで、あやうく初号機が侵蝕されそうになった。

コアを奪われていたら、動けなくなってしまっただろう。

あるいは、S2機関を奪われでもしたら。

アダムが支配しているリリスの体。

その遺伝子に宿る、「知恵の実」。

そこに「生命の実」たるS2機関が加われば、アダムも神に等しい力を得るが、それは「生命の種」にとって禁じられた行為であり、ロンギヌスの槍のセキュリティを発動させる事となる。

初号機の持つ槍か、あるいは、月にあるかも知れない槍か。

しかし、それでもやりようはあるのだ。

初号機と弐号機を倒したのち、「知恵の実」を持つリリスの体を分離してしまえば、力を持つには至らず、保安装置も働かない。

障害を全て排除し、アダム単体に戻ってからS2機関を取り込めば、長き未来に渡って地球はアダムのもの、使徒の星とする事が出来る。

--- シンジ、私と意識を統一して ---

改めて、ユイがシンジに伝える。

--- 1つにばかり集中しては駄目よ。アダムにも、エヴァにも、周囲にも、感覚を広げて ---

そうシンジに伝えはしても、ユイ自身、理想を実践出来るほど、戦い慣れなどしていない。

月上空を戦場。

全方位からが攻撃。

突進するアダムをよける。

頭部に迫った蹴りを、時計回りに回転し、右脇腹のそばを通過させる。

背後から襲い来る両腕を、上へと飛び、右肩を蹴った反動で逃れる。

しかし、突然、あらぬ方向から数条の光が襲った。

予想外の攻撃を完全にはよけきれず、1つの光が左足に当たった反動で、バランスが崩れる。

“ くそっ! ”

急いで体勢を立て直し、次弾を警戒する初号機。

“ なんだ、今の!? ”

やはり、力の使い方では敵が一枚上手だった。

光の正体は、アダムの手から発せられた破壊光線だった。

アダムとは離れた場所からの攻撃。

それは、第12使徒レリエルの力によって展開された「空間」からのものだった。

2つの「空間」を結んで、入口と出口を作る。

とはいえ、精度は低い。

初号機の移動速度も、相手に容易な捕獲を許すものではない。

それでも、数が多ければ少なからず脅威となる。

“ うっ! ”

至る所から牙をむく、無数の攻撃。

アダム本体が、そして、「空間」を通して破壊光線やサキエルの槍が、全方位から矢継ぎ早に襲いかかる。

初号機も「空間」を展開、同様の攻撃は行なえないが、相手の攻撃を別空間へ逃がすために使用する。

そして、「空間」で防げない位置からの攻撃は、A.T.フィールドで弾き返す。

空を縦横に移動しながら、懸命に防御するシンジとユイ。

“ これでっ! ”

攻撃の間をぬって、ユイがロンギヌスの槍からアンチA.T.フィールドを発生させ、アダムの「空間」へとぶつけた。

「空間」をこちらの空間に支えている、内向きのA.T.フィールドが中和され、消滅する。

続けて、他の「空間」もアンチA.T.フィールドで消していく初号機。

攻撃の勢いを抑える事には成功したが、それでも、すぐに新たな「空間」が発生するため、事態の打開には遠い。

--- とにかく、弐号機が到着するまで持ちこたえないと! 感覚を広げて、わずかな動きにも注意して! ---

シンジと自分自身に重ねて喚起するユイ。

初号機の左上空に「空間」が広がり、数本の光線が飛ぶ。

両足の間を通過させるようによけながら、下方から迫るアダムを、後方への移動で逃れる。

そのまま右方向へスライドすると同時に、正面、右後方、左斜め下にあいた「空間」の内、2つを消滅させると、残る右後方からの光線を左にかわす。

--- 「空間」で初号機全体を覆っちゃうっていうのは!? ---

いや、それは出来ない。

シンジも、自身の経験から、言ってすぐに気がついた。

確かに、「空間」で全体を覆う、あるいは、「空間」の中に入った状態で、こちらの空間上を移動する事は可能だ。

しかし、これでは初号機がこちらの空間から遮断されてしまうため、アダムの動向を探る事も、弐号機と連絡を取る事も出来なくなる。

では、あの時、第12使徒レリエルは第3新東京市においてどのように活動し、エヴァに対して攻撃を仕掛けたのか。

目的の場所へと移動し、初号機を「空間」へと引きずり込んだのは、もちろん、それぞれの位置を把握したがためだ。

どうやってレリエルは「見て」いたのか、それは、都市上空に出現していた、球状の「影」である。

あの「影」は、潜水艦が海上を観察する潜望鏡のような役割を担っており、こちらの空間の様子を知覚し本体へと伝えていたのだ。

アダムが遠隔操作を可能としているのは、アダム本体という「目」がこちらの空間にあるため。

「影」と「空間」の間隔は、まさしく影のように、大きく離れる事はない。

すなわち、「影」を出現させれば、こちらの位置を相手に知らせてしまう。

かといって、ただ闇雲にこちらの空間へと戻って、万が一にもアダムの間近に出現しようものなら、それこそ格好の餌食となってしまう。

では、他に手立ては?

攻撃の回避だけを考えるなら、方法はある。

第一始祖民族によって組み込まれたセキュリティにより、アダムも「空間」も、月を超えるほどの遠くには地球から離れられない。だから、地球よりも外、月から大きく離れた位置まで逃げれば良い。

しかし、アダムとの距離があき過ぎれば、地球へ向かうのを許してしまう恐れがある。

まだ弐号機が地球にいるのであれば、非常に危険だ。

アダムも心得ているのだろう、月面から大きく距離をあけず、初号機を自分の行動圏内に縛りつけている。

遠くから「空間」による攻撃、近くに誘導してアダムの追撃。

人の魂が体内にある以上、大きな傷を負わせるような攻撃も出来ず、ただ時間稼ぎを続けるだけの初号機。

「空間」で頭上からの破壊光線をよけながら、背後から伸びたアダムの両腕をすり抜ける。

サキエルの槍をA.T.フィールドの盾で払いながら、アンチA.T.フィールドで発射口である「空間」を消し去る。

遠ざかろうとするアダムに接近し、向かって来ればよける。

つかず離れず。

逃げながら追う。

過去の使徒との戦いは、短時間で決するものばかりだった。

いや、今も、実時間は同様の長さほどにしか経過していない。

しかし、高速、高密度の戦いにおいて、シンジもユイも、大きな心理的負担に苦しめられていた。

アダムや「空間」、周辺へと広く感覚を張りめぐらそうとするも、激しい緊張状態が続く中、思わず日常で主として使っていた視覚へと偏りがちになる。

そして、強いストレスによって視野が狭められる、「トンネル視野」という状態に陥る。

二人共に肉体を持たない状態でありながら、過去の肉体的記憶から来るイメージが同様の反応を呼び起こしてしまう。

それゆえに、見逃してしまった。

月面付近で行動するアダム、そして、「空間」から放たれた攻撃は、流れ弾となって地面をえぐる。

衝撃により、あちこちで霧のように舞い上がる塵、レゴリス。

視界が悪くなっているにもかかわらず、いや、だからこそ、慣れている感覚に頼ってしまうシンジとユイ。

“ うあっ!? ”

なまじ見えていたため、よけいに驚愕は大きかった。

「空間」の広がっていない地面から、第4使徒シャムシエルの鞭が数本伸び、よける間もなく初号機の左足に巻きついた。

否、「空間」は広がっていた。

これまで数十億年にも渡って、月の地面ではレゴリスが降り積もってきた。

浅い所で約2メートル、深ければ20メートル以上。

その中に、アダムはそっと潜ませていたのだ。

事態を把握する間もなく、初号機は巻きついた鞭に引っ張られ、地面へと激突した。

バルディエルの力で左足を細く変形させ、鞭から逃れる。

すかさず、アダムが襲いかかる。

ロンギヌスの槍を振るう初号機。

しかし、バランスがくずれた体勢での闇雲な防御に過ぎなければ、狙いの定まろうはずもない。

あっけなく槍はよけられ、アダムに接近を許す。

横に移動しようとするも、間に合わない。

アダムの手が、初号機の腕を捕らえようと伸びる。

つかもうとした、その瞬間、

“ あっ!? ”

A.T.フィールドを盾にした弐号機がアダムへと突進した。

体をかわすアダム。

侵蝕の手が迫る前に、初号機のそばへと跳躍する弐号機。

“ 貸してっ! ”

ひったくるように初号機から槍を取ると、アダムへと切っ先を向ける。

わずかに後ずさるアダム。

“ っ!! ”

初号機は素早く立ち上がると、弐号機の腰を抱きかかえ、後方に飛んだ。

次の瞬間、今まで弐号機が立っていた場所に、「空間」からサキエルの槍数本が突き刺さる。

“ えっ、なに!? ”

“ アスカ、綾波、繋がって! ”

驚くアスカ、そしてレイに、シンジは連携を促し、超高速に加速して移動すると同時に、「圧縮」で状況を伝えた。

平行して、レイとアスカは地球での結果をシンジとユイに伝える。

初号機がアダムに襲われ、連絡が途切れたのを受け、深海にいた弐号機は浮上を始めた。

月の状況を探りつつ、海上を目指しながら槍の探査を継続する。

早く月に向かわなければならないが、守りの薄い弐号機では、かえって足手まといになる恐れがある。

それでも、アダムを捕らえるには、弐号機と初号機が連携し、なおかつアダムの拘束と槍を刺すという作業を分担して行なう必要がある。

海面まで数十メートルという地点で、二人は苦渋の中、探査を断念し、移動に専念する。

そして、弐号機は空へ飛び出すと、そのまま月に向かった。

--- そう、じゃあ、これしかないわね ---

アスカの報告を受けて、ユイは皆に伝えた。

月到着時に伝わってきたアスカの様子から、これは想定していた事態。

L.C.L.への影響を考慮し、傷口を最小限とするため、ユイは槍の先を二又から一本へと変化させる。

そして、考えていた対策を三人に向けて指示した。

--- 2体でこの槍を共有します。槍を軸にして、かたまって行動しましょう、いいわね? ---

1本の槍でアダムの全方位からの攻撃に対応するには、出来るだけ攻撃の分散を防ぐと同時に、2体が共に槍の力を使えるようにしなければならない。

弐号機の左手にあった槍を、初号機が右手でつかむ。

2体共に、同じ方向を前にして並ぶ。

複数の攻撃を同時に察知し、適切な方向へと瞬時に移動するため、四人の意識を統一、より連携を強化する。

だが、なにが起こるかわからない戦闘時において、それは困難を極める。

これまでの作業は、宇宙での移動や材料の採取というように、1つの行動に専念すれば良かった。それが、戦闘においては矢継ぎ早に、様々に、判断と行動を重ねていかなければならない。

連携しなければ勝てない、連携出来なければ負ける。

そして、状況はさらに過酷さを増す。

(でしょうね・・・)

これも、ユイの危惧していた事態。

こちらの1に対して、相手が2に。

中央から縦に分離していくアダム。

攻撃の手を増やし、エヴァ側の意識をかく乱するため。

なにより、槍が1本しかないのであれば、片方がやられても、もう片方が戦える。

--- 大丈夫、やれる ---

その時、口火を切ったのはシンジだった。

--- やれるよ ---

それだけを皆に伝え、シンジは開始を待った。

そう、今となっては、迷いなど無意味だ。

あとは始めるだけ、それしかない。

--- いきましょう ---

レイが。

--- よしっ! ---

アスカが。

--- みんな、繋がって! ---

ユイが。

そして、始まる。

皆で、始める。

 

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ユイの指示で、「空間」を展開する。

アスカの指示で、左後方からのアダムをかわす。

A.T.フィールドが間に合わず、シンジが破壊光線を直接初号機の左手で受ける。

弐号機の右腕に絡みついたシャムシエルの鞭から、レイが変形によって逃れる。

分離により力は弱まったものの、アダムからの攻撃量は倍増していた。

それでも、2体のエヴァは屈する事なく戦いを続けた。

シンジの意識の奥底を、ほんの一瞬、あの日の記憶がかすめて消える。

アスカが来日し、弐号機に二人で搭乗した時、ドイツ語と日本語という思考言語の違いにより発生したノイズのせいで、シンクロが正常に行なえなかった。

言葉の壁。

人と人とを隔てるもの。

けれど、今は。

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アスカが下方にA.T.フィールドを展開し、破壊光線を弾く。

槍のアンチA.T.フィールドで「空間」を消去すると同時に、迫るシャムシエルの鞭をA.T.フィールドで払うシンジ。

足元の攻撃を、弐号機が「空間」でよける。

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初号機の左肩に、サキエルの槍が弾かれる。

エヴァを右に回転させ、サキエルの槍と破壊光線を突破する。

下方からのアダムをA.T.フィールドで遮り、別のA.T.フィールドでシャムシエルの鞭をはね返す。

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不思議な高揚がシンジを満たしていた。

他の三人も、内側から力が湧いてくるのを感じていた。

シンジの言葉が実感出来る。

やれる。

なぜそうなのか、理由などいらない。

ただ、そうなのだ、と。

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--- ――−−・――― ---

--- ―――― ---

--- ――――――――― ---

--- ― ――   ---

---  −−――    ---

---      ---

---        ---

---    ---

 

やがて、

伝えるものは存在しなくなる。

全てをひとつに感じ、ひとつに決断し、ひとつに動く。

「硫黄」と「水銀」の力が媒介となり、心の力が増幅、より強く繋がる。

エヴァの体を覆っている「光の衣」が輝きを強める。

光が広がり、エヴァ全体を包む。

2体がひとつに。

四人がひとつに。

アダムに先んじて移動し、動きを制するべく、A.T.フィールドを至る場所に展開、固定する。

防御のための「空間」を平行して発生させながらも、展開した数多くのA.T.フィールドは、アダムの攻撃を防ぎ、進路を変えさせる「壁」として、充分な強度を維持していた。

周囲に散りばめられた「壁」によって、アダムは迷路の中、移動の速度や方向を限定せざるを得ない。

統一された四人の感覚は、全ての「壁」を認識し、コントロール出来るほどに、アダムのそれを上回っていた。

どう動けば良いのか、どう導けば良いのか、充分に把握している。

とはいえ、決して油断など出来ない。

連携が崩れれば、初号機はともかく、弐号機が侵蝕される可能性は、いまだゼロではない。

それに、アダムを完全に沈黙させるには、2体共槍で刺さなければならない。

もちろん、体内にあるL.C.L.を傷つけないよう、慎重かつ確実な手段で。

だから、そう、そのためにばらまいたA.T.フィールドだ。

「壁」と、エヴァの移動によって、アダムの進行を誘導する。

気づかれてはいない。

2体のアダムは導かれるままに互いの距離を縮め、作戦の行動範囲へと入った。

機を逃さず、四人は操作を開始する。

アダムの周囲に散らばっていたA.T.フィールドを拡大し、隣り合うもの同士を接合させる。

数多くの「壁」が繋がり合い、瞬時にしてそれは、空中に巨大な球状の「檻」を形成した。

中に閉じ込められた、2体のアダム。

外へ出ようと、「檻」ごと移動しようとはかる。

四人は「檻」を収縮させ、強度を増していく。

アダムの動きを封じようと、「檻」を空中から降ろし、地面を支えとする事で、抵抗の勢いを押さえつける。

初号機はあいている左手を、弐号機は右手を「檻」に当て、さらに強度を増すべく、力を直接注ぐ。

「檻」は収縮を続け、2体を1ヶ所へと集める。

アダムが両手を突いて抵抗するも、「壁」を破るには至らない。

2体に分離したままでは、出力が弱い。

すなわち、

“ やった!! ”

思わずシンジが叫んだ。

アダムの体が、1つになっていく。

--- ここが踏ん張りどころよ!! ---

げきを飛ばすアスカに続き、レイが注意を促す。

--- 力の加減に気をつけて! 圧迫し過ぎると、体内のL.C.L.に影響があるかもしれないわ! ---

成すべきは、倒す事ではない、守る事。

改めて意識を統一し、四人は「檻」を操作した。

アダムはアンチA.T.フィールドで「壁」を破ろうとするが、中和した先から再生していき、「檻」の強度はほとんど減る事がなかった。

逃避口として開かれた「空間」も、A.T.フィールドの集合体である「檻」から切り離された「壁」が、回転する刃となって切り裂いた。

「檻」はさらに縮小し、アダムの自由を奪っていく。

やがて、抵抗が消え、遂には「壁」を押していた両腕が下がる。

弐号機が、迅速に初号機から離れた。

左手にロンギヌスの槍を持ち、アダムの活動を止めるべく、「檻」へと切っ先を向ける。

早く、とどめを。

初号機だけで「檻」を維持している間に、アダムが反撃する前に、早く。

--- 行くわよ! ---

--- ええ! ---

連携を高めるアスカとレイ。

そして、

--- シンジ! ---

--- うん! ---

タイミングをはかるユイとシンジ。

ギリギリまで「壁」の強度を維持しつつ、弐号機が槍を通す寸前、即座に穴があくよう、ピンポイントでA.T.フィールドの出力を下げる必要がある。

弐号機が槍を突き出す。

切っ先が「壁」に達する寸前、初号機が出力を下げる。

二又から一本へと変形させた槍はアンチA.T.フィールドを発生させ、通過可能な最小限の穴をあける。

「壁」を通過し、まっすぐにアダムへと向かう槍。

と、突然、アダムが動いた。

驚異的な反射で槍を両手でつかみ、突入の勢いを止める。

槍の発するアンチA.T.フィールドに耐えながら、抵抗するアダム。

負けじと、弐号機が力を込めて押す。

“ 無駄よっ!! ”

アスカの叫びに屈するかのように、槍をつかむ肘が折れていく。

そして、

“ くらえっっ!! ”

槍はアダムの左脇腹へと沈んでいった。

確かな手ごたえ。

傷口は最小に抑えられ、すぐに槍と融合して消えた。

“ 始まったわ! ”

ユイが機能の発動を確認した。

またたく間に、槍の刺さった個所を中心として、アダムの内部へアンチA.T.フィールドが広がる。

体から発せられていた白い光が、輝きを失っていく。

活動の停止が、進んでいく。

“ よっしゃ〜っ!! ”

歓喜に叫ぶアスカ。

喜びを共にしたいシンジとユイであったが、初号機にはまだすべき事が残っていた。

「檻」からは槍が突き出ており、依然、開けられた穴がある。

万が一、L.C.L.がアダムの体外に漏れ出た場合に備え、初号機は穴を埋める作業へと着手した。

だが、しかし、

“ なっ!? ”

“ っ!! ”

アスカとレイは激しい衝撃に襲われた。

アダムの右腕が、まだ生あるものとして、変形し、俊敏に動いた。

第16使徒アルミサエルの如く、一瞬にして腕が二重螺旋の形を成し、さらに、数本のひも状に細く分かれると、まだふさがっていない穴の隙間から外へと飛び出した。

そのまま、触手は弐号機の胸部に食らいついた。

“ ぐっ!! こ、この・・・ ”

アスカの吐いた言葉は、しかし、すぐさま勢いを失っていった。

ただの悪あがきだ。

こんなものは、断末魔の悲鳴に過ぎない。

槍は確かに刺さって、役目を果たしている。

アダムは活動を停止する。

なのに、

なのに、なぜ、まだ動いている?

“ そんな! ”

レイは信じられない思いで叫んだ。

白い光の消えている部分が、活動停止の反応が、槍の刺さった左半身のみで止まっている。

アンチA.T.フィールドが、右半身には届いていない。

“ あっ!! ”

次の瞬間、アダムの体が左右の2つに分かれた。

“ な、なんで・・・ ”

アスカは激しく混乱した。

弐号機は、確かにアダムを槍で刺した。

槍が刺さってから分離しようとしても、間に合うはずがない。

(出来るわけないのに・・・、なのに、なんで分離してんのよ・・・?)

いや、そうではない。

アダムは分離したのではない。

アダムは元々、1体に戻ってなどいなかったのだ。

表面だけが1つに結合し、内部は2体に分かれたままだった。

初号機と弐号機の連携により作られた「檻」。

分離した状態では破れるはずもなく、そもそも、アダムに破るつもりはなかった。

破らずとも、相手が扉を開けてくれる。

アダムは、ただ待ってさえいれば良かった。

刺さる寸前に槍をつかんだのも、抵抗のためなどではなく、左右どちらかの半身にのみ刺さるよう、導いた。

それでも、たとえ表面だけであっても、接触している以上は右半身にも槍の影響が伝わったはず。

つまり、アダム本体は、どこも接触していない。

2体の表面を覆っていたのは、アダムのものではなかった。

アダムは、「檻」に閉じ込められた瞬間から、この策を定め、ひそかに準備を進めていた。

それは、リリスが体内に取り込んでいた、人間の細胞。

胎児のアダムを埋め込んだ、碇ゲンドウの右手の細胞を超高速で増殖させ、それを「偽装」と左右の体への「仕切り」に利用したのだ。

人間の細胞を月の気温や放射線から守るために、「檻」という、敵のA.T.フィールドを利用して。

知略は、こればかりではない。

“ アスカ!! 綾波!! ”

呼びかけるシンジに返る答えはなかった。

二人の驚愕は大きく、それゆえ、連携も途切れてしまっていた。

左の腕と足を生やして立つ、右アダム。

半身のみであっても、それが与えた驚愕は、弐号機への侵蝕を可能とさせた。

とらわれた体が、触手によって穴へと引きずられ、「壁」に激突する。

“ くそっ!! ”

シンジは急いで穴をふさごうとした。

A.T.フィールドを閉じて、あの触手を切断すれば。

アダムがアンチA.T.フィールドを発していようとも、分離した1体のパワーであれば、こちらの方が勝る。

“ しまった! ”

しかし、シンジの望みはユイの叫びにかき消された。

“ あっ!? ”

ユイに続いて、シンジも気づいた。

穴がふさがらない。

右アダムを上回る力でA.T.フィールドを展開しているはずなのに。

停止したアダムの突然の行動に、襲われた弐号機に、シンジもユイも大きく動揺していた。

動揺したがために、見落としていた。

活動停止の作業は、まだ完全には終了していない。

そのため、ロンギヌスの槍はアンチA.T.フィールドを発し続けていた。

そこに、アダムの力が加わる。

2つのアンチA.T.フィールドが合わさる事で、それは、冷静さを失い、連携が弱まっていた初号機に抗し得る力となり、穴をさらに広げた。

“ くっ!! ”

急いで弐号機のもとへと向かう初号機。

こうなったら、直接弐号機から触手を引き剥がす。

だが、初動のロスは致命的だった。

 

「あああっ!!」

アスカは苦痛に声をあげた。

シンクロした体に、弐号機内部をはいずるものが感じられる。

体は、肉体へと戻っていた。

精神の激しい動揺は「光の衣」の弱体化を招き、触手の侵入を防げずにいた。

全身を、えもいわれぬ熱さと嫌悪感が広がっていく。

「こ・・・、このおおおっ!!」

必死にコントロールレバーを動かすアスカ。

しかし、なにも反応がない。

そして、一転、今度は凍える冷たさに襲われる。

弐号機内部で仕掛けられた、第15使徒アラエルの力。

相手の霊的エネルギーに干渉する、精神攻撃。

痛みを伴う冷たさが、エントリープラグ、そして、コアの中にいるものの心に広がっていった。

追い討ちをかけるように、突然、プラグ内が闇に包まれる。

“ アス− ”

レイからの声が聞こえ、すぐに途絶えた。

そして、光が、音が、全てが止まってしまった。

「レイ!? レイっ!! う、くっ・・・」

アスカの周囲に動くものはなく、先ほどまで感じていた冷たさも、痛みも、次第に感じられなくなっていった。

「どうなってんのよ・・・、なん・・・で・・・」

暗闇の中、パイロットシートに倒れるアスカ。

呼吸が思うように出来ない。

全身の感覚が麻痺している。

繋がろうにも、レイの存在が感じられない。

コアになにかあったのだろうか。

だとしたら・・・。

「レイ・・・、ママ・・・、ママ・・・」

必死に呼ぼうとするも、絶え絶えにつぶやく事しか、今のアスカには出来なかった。

 

“ っ!? ”

初号機の手が届く寸前、触手が離れ、弐号機の体が崩れ落ちた。

シンジは反射的に支えようとし、そして、見た。

胸部がえぐられた、弐号機の体。

初号機の腕をすり抜けるように、力なく地面に倒れる。

しかし、恐怖はこれだけではなかった。

右アダムの腕が「檻」の中へと戻る。

広げられた穴を通って、触手も、触手が持つものも。

それは、弐号機から奪った、コアと、S2機関。

“ 綾波っ!! ”

コアの中には、レイと、アスカの母であるキョウコがいる。

そして、S2機関、すなわち、「生命の実」。

右アダムはそれらを体内に埋め込んだ。

自分の、ではない。

ロンギヌスの槍が刺さった、左アダムの中に。

“ まさかっ!! ”

右アダムの意図に気づき、ユイは叫んだ。

左アダムの中には、「知恵の実」を持つリリスの体、「生命の実」たるS2機関、そして、リリスの魂を持つ綾波レイが。

「知恵の実」と「生命の実」が融合する事で、神に等しい力が発生する。

「生命の種」であるアダムが禁じられた力を得た事で、ロンギヌスの槍が保安装置としての機能を発動させる。

魂を持たないものには、活動の停止を。

そして、

魂を持つものには、卵への還元を。

右アダムは迅速に触手を切り離し、槍の影響から逃れると、左アダムから離れた。

槍が反応し、アンチA.T.フィールドの発生を強める。

卵への還元とは、すなわち、始原への回帰。

還元が進めば、体内にあるレイの魂も、キョウコの魂も、L.C.L.と化している多くの人々の魂も、卵の状態へと戻る。

つまり、全てがリセットされる。

記憶も人格も、心も、全てが白紙に戻る。

存在が、消されてしまう。

--- シンジ!! ---

千々に乱れそうになるシンジを、ユイからの戒めが制する。

--- 心を乱しては駄目! 冷静になるのよ、シンジ! ---

“ くっ・・・ ”

シンジは懸命に自分を繋ぎとめた。

これ以上心が乱れて、連携が途切れたら、体が肉体に戻ってしまったら、さらに戦いが不利になる。

誰も、救えなくなる。

ユイは、少しでもシンジを鎮めるべく、確認した状況を「圧縮」で伝えた。

弐号機のエントリープラグは破壊されていない。

アスカの意識は朦朧としており、意思の疎通ははかれなかったものの、命に別条はない。

それなら、

(アスカ、ごめん、待ってて!!)

初号機は「檻」に向かった。

(綾波、今助ける!!)

穴から突き出た槍が視界に入る。

還元を止めようとして、反射的にシンジはそれを抜こうとしたが、危うく踏みとどまる。

駄目だ。

慌てたら駄目だ。

抜いたら、全てが終わる。

還元の途中で強引に抜いたりすれば、セカンドインパクトの二の舞だ。

強大なエネルギーが、槍という戻りの場を失って、外へと解放される。

そんな事になれば、コアもL.C.L.も消滅してしまう。

さらに、地球の地軸を移動させるほどのエネルギーなのだ、地球よりもはるかに小さい月など破壊されてしまうだろう。

月がなくなれば、地球も無事では済まない。

無数の破片が落下し、地上は核爆発並みの衝撃にいくつも見舞われるだろう。

自転軸を安定させてきた引力が突然なくなったら、地球そのものがどうなるか。

セカンドインパクトをはるかに超える災厄。

今度こそ、なにもかもが失われてしまう。

シンジは「檻」を拡大すると、広げた穴から中へと入った。

パニックになるな、冷静になれ。

助けなきゃならないんだ。

連携を強めて、力を取り戻せ。

くり返し、くり返し、自分に言い聞かせながら。

--- あなたはコアを! ---

ユイが初号機の背中から両の腕を生やした。

待ち構えている、アダムに対抗すべく。

これは罠だ。

弐号機の動きを封じた上で、初号機の動きも封じるための。

それでも、向かうしかない。

戦うしかない。

シンジは、左アダムの前に立ち、コアとS2機関が埋め込まれた個所へと手を伸ばす。

ユイは、L.C.L.を守るべく、「壁」の穴をふさぐと同時に、襲いかかる右アダムの両手と、背中の両手で組み合う。

左のアダムと右のアダム。

どちらも失わない。

どちらの中にも、守るべき人達がいる。

1/2となったアダムに対し、侵蝕から身を守りながら、相手の力を封じ、拘束しようとする。

右アダムも対抗し、初号機の力を封じようと迫る。

どちらも使徒の力を使う事はかなわず、ひたすらに侵蝕をかけての戦い。

互いに拮抗し、一進一退が続く。

ユイは懸命に力を発した。

相手は分離して力が弱まってはいるものの、こちらとて長くは耐えられない。

だが、耐えなければ。

シンジがコアを救い出すまで。

“ く・・・、あ、綾波!! ”

槍が発生させる強力なアンチA.T.フィールドに耐えながら、シンジは右手を左アダムの体内に侵入させた。

事態を回避する方法は2つ。

だが、還元から活動停止へと槍の機能をコントロールしようにも、この切迫した状況の中、経験のないシンジはもちろん、ユイにしても、槍と意識を繋げるには少なからず時間を要する。

その時間こそが、今はなによりも惜しい。

ならば、直接コアを取り出すしかない。

傷口を大きくしないために、右アダム同様、右手をひも状の触手に変形させようとしたのだが、使徒の力は働かない。

そのため、元の右手のままで、侵入していく。

慎重に、しかし、もう一刻も猶予はない。

早く、助けなければ。

“ 綾波!! ”

早く、声が聞こえている内に。

 

“ 碇君・・・ ”

コアの中で、レイはシンジを呼んでいた。

意識がはっきりしない。

侵蝕された際に触手からアラエルの精神攻撃を受け、霊的エネルギーが消耗してしまったため、コアから脱出する事が出来なかった。

1人でも、ましてや、コアに眠るキョウコも共にでは、なおの事。

さらに、還元によって発生したアンチA.T.フィールドがレイを蝕んでいく。

コアはS2機関と分断されており、機能停止に陥っていた。

外部電源やS2機関によって与えられる物理的エネルギーを霊的エネルギーへと変換し、内部の魂に供給する役割を持っているコア。

しかし、今、その供給が絶たれている。

レイは自身に残るエネルギーをキョウコへと分け与えながら、弱る心で必死に耐え、待っていた。

恐い。

恐い。

なにも出来ず、このまま消えてしまうのが。

もう会えなくなってしまうのが。

でも、

きっと来る。

呼ぶ声が聞こえる。

だから、きっと助けに来てくれる。

“ 碇・・・君・・・ ”

 

シンジは右腕を左アダムの中へと進ませた。

コアもS2機関も、あまり奥までは埋め込まれていないはず。

迅速に、けれど慎重に。

アンチA.T.フィールドの影響がシンジにも及ぶ。

心が蝕まれる。

もし間に合わなかったら。

もし助けられなかったら。

不安や恐怖に染まりそうになるのをこらえながら、シンジは声のする方へと進んでいく。

大丈夫だ。

届く声が、確かになっていく。

綾波の意識へと近づいているのがわかる。

自分を呼んでいる。

待っている。

“ 今行く、綾波!! ”

「光の衣」が強く輝き、アンチA.T.フィールドに抵抗する。

近くに感じる。

笑顔が思い浮かぶ。

(もう一度見るんだ、あの笑顔を!)

触れるものがあった。

遂に見つけた。

シンジはコアとS2機関をしっかりとつかみ、左アダムの体から右手を抜き出した。

アンチA.T.フィールドが弱まっていく。

リリスの魂がなくなった事により、ロンギヌスの槍は還元から活動停止へと操作を変えた。

“ 綾波っ!? 待ってて、綾波!! ”

取り戻したコアを急いでS2機関に繋ぐ。

コアは活動を再開し、レイとキョウコにエネルギーを送った。

“ ・・・だいじょうぶ・・・、キョウコさんも・・・。ありがとう、碇君・・・ ”

“ 綾波・・・、うっ!? ”

しかし、安堵はつかの間。

初号機が大きく揺れ、シンジに衝撃が襲った。

“ か、母さん!? ”

右アダムからの圧力が、急激に強まった。

背中の両腕で組み合っていた初号機が、徐々に押されていく。

(どういう事?)

ユイは困惑していた。

突然、アダムの出力が上がった。

いや、それだけではない。

(こっちの出力が、下がってる?)

右アダムと組み合っていた両手が強い熱を感じる。

初号機への侵蝕が、進んでいる。

“ 母さん!! ”

即座にシンジが加勢し、防御を強化する。

しかし、速度をゆるめはしたものの、侵蝕はなおも進んでいた。

(まさか、これを狙って?)

ユイは推測する。

ロンギヌスの槍と左アダムが卵への還元で発した、アンチA.T.フィールド。

デストルドーの影響はシンジに、そして自分にも及んでいた。

それによって起こる、初号機の力の低下。

対して、アダムはこの時を狙って、今まで力を温存していたのか。

“ くっっ!! ”

「光の衣」でフィールドの影響を抑えたため、極度の消耗は防げたのだが、防御に専念しなければならない状況では、回復もままならない。

ただ時が過ぎ、じわじわと侵蝕が進んでいく。

いずれは、初号機の深部まで侵蝕されてしまう。

状況を打開するためにも、なんとかして弐号機を復活させなければ。

だが、身動きはとれず、コアとS2機関を運ぼうにも、使徒の力が封じられていては、「空間」を開く事も出来ない。

わずか数十メートルの距離。

それが、こんなにも遠い。

 

「ママ・・・、レイ・・・」

エネルギーを失い、光も音も失ったエントリープラグにおいて、アスカの肉体は弛緩し、L.C.L.の底に沈んでいた。

レイ同様、侵蝕された時に受けた精神攻撃により、意識がまとまりを持たない。

全身の感覚が麻痺し、自分という存在が薄れていく。

寒い。

肉体の冷たさではなく、心の寒さに凍える。

欠落が、空虚が。

やっと再会出来たのに、やっと認め合えたのに。

また失ってしまうのか。

そして、一緒にいたいと願った人。

今この時も、戦っているはず。

助けに行きたい。

戦いたい、一緒に。

なのに、動けない。

大切なもの、もう二度と、失わないと決めたのに。

いやだ。

失いたくない。

失わないって、決めたじゃないか。

だから、なんとかして、伝えないと。

「シンジ・・・」

 

初号機の背中の腕が、手首と肘の中間あたりまで侵蝕されている。

シンジは防御に加わりながら、状況を打開する策がないか懸命に思案した。

だが、どうすれば対抗出来るのか。

なにか手段は・・・。

思わず、両手で包むように持つコアを、シンジは見た。

コアの中にいる、レイと、アスカの母キョウコ。

せっかく、救い出せたのに。

今度こそ、守れると思ったのに。

せっかく・・・。

・・・救い・・・出せた?

--- 母さんっ、綾波っ!! ---

シンジは天啓のごとくひらめいた考えを、ユイとレイに伝えた。

はたして策と呼んで良いものか。

あまりにも不安要素が多い。

しかし、

--- やりましょう ---

ユイは即座に決断を返した。

いちかばちか。

しかし、迷っている暇などない。

今は、この手にすがるしかない。

--- 綾波! ---

シンジはコアを胸に抱き、レイへと呼びかけた。

--- ええ、いいわ ---

続けて、ユイとタイミングを合わせる。

--- いくよ、母さんっ!! ---

--- ええ!! ---

そして、ユイは最大限に力を発揮し、シンジは防御から離れた。

レイと連携するシンジ。

シンジから力のサポートを受け、レイは操作を開始した。

「檻」の中において、使徒の力が使える唯一の存在。

半身の状態で横たわっている、左アダムへの同化。

今のアダムの体は、リリスと融合したもの。

活動停止の状態であっても、リリスの魂を持つレイならば、同化出来る可能性が。

全てじゃなくても、腕だけでも操作出来れば。

回復が充分ではなく、霊的エネルギーが不足しているレイ。

しかも、左アダムの内部では、ロンギヌスの槍から活動停止のためのアンチA.T.フィールドが発せられ続けている。

それでも、たとえ無謀であっても、やるしかない。

三人で、持てる力をふりしぼる。

ピクリ、と、左アダムの腕が震えた。

レイは腕を上げるよう操作し、シンジがコアとS2機関を初号機の手から渡す。

ただ持っているだけならば、神に等しい力は生じない。

そのまま、腕を「壁」に伸ばそうとするレイ。

しかし、

“ えっ!? ”

突然、ユイへの圧力が減少した。

--- レイ!! シンジ!! ---

即座に理由を察したユイが、二人に警告を発する。

左腕が動きを鈍らせる。

右アダムの介入。

左アダムへと同化をはかり、レイの操作を妨害する。

右アダムを阻止しようとするユイ。

左アダムを動かそうとするレイとシンジ。

少しずつ、「壁」へと進んでいく左腕。

だが、レイはもう限界に近かった。

--- 綾波!? ---

レイの力が低下していく。

キョウコを守るために霊的エネルギーを使ったため、衰弱が思いのほか激しかった。

--- だ、大丈夫、まだ ---

それでも、レイは力を出す事を止めようとしない。

--- 弐号機まで、必ず運んでみせる・・・ ---

--- 綾波! ---

シンジも、レイに限界まで力を送った。

それでも、右アダムの妨害により、左腕の動きがいまだ鈍い。

時間ばかりが過ぎていく。

このままでは、レイの力が尽きてしまう。

--- シンジ、あなたをコアに送るわ。あなたの力を直接レイに渡して、レイを支えて ---

ユイがシンジに伝える。

--- え、でも、そんな事したら母さんが! ---

--- こっちは私だけで大丈夫よ ---

強がりであると、わからぬはずもない。

それでも、最悪の事態を逃れるためには、やるしかない。

だけど・・・。

躊躇するシンジに、ユイは重ねて言葉を投げる。

--- 迷ってる時間はないわ! ここは私に、え・・・? ---

不意に、ユイの言葉が止まった。

そして、次の瞬間、初号機の出力が上昇した。

--- 行け! ---

鋭い言葉が、シンジに響く。

--- えっ!? ---

--- 行け、シンジ! ---

重なる言葉が、シンジを押す。

声の主を、シンジは知っていた。

しかし、初めて自分に向けられた、力強い響き。

それは、初号機のコアで眠っていた、父ゲンドウからのものだった。

 

 

「済まなかったな、シンジ・・・」

サードインパクトが起こる中、碇ゲンドウはユイとの再会を果たした。

ユイへと胸中を吐露し、自身を罰した。

突如現われたエヴァ初号機に、頭から食われる。

それは、ゲンドウの心がイメージしたもの。

贖罪と願望。

シンジが乗る初号機に殺される。

そして、

ユイが宿る初号機の中に入る。

 

 

ゲンドウに続き、ユイもシンジを促した。

--- 行きなさい、ここは私達に任せて! ---

--- う、うんっ、行くよ!! ---

意志を決する。

量子状態の体が光を発する。

左アダムの腕を初号機の胸まで動かし、弐号機のコアをエントリープラグの近くへ寄せる。

ユイのサポートで、シンジはコアへの移動を始めた。

光の中、シンジは全ての感覚が電気を受けたように弾けるのを感じていた。

光を発しているというより、自分そのものが光になったような。

初号機の胸部がひときわ強く輝き、それがコアへと移っていく。

早く、早く、綾波のもとへ、アスカのもとへ。

二人を、綾波とアスカを守る。

そして、母さんと、父さんを守る。

(僕が守る!!)

 

シンジがコアへ移ったのを確認すると、ユイとゲンドウは、初号機の防御に全霊を傾けた。

あとは、シンジに任せよう。

自分達の息子に。

 

--- 綾波! ---

弐号機のコアの中、シンジはレイの状態を確かめた。

地球を発つ前に見た姿よりも、さらに透明さが増している。

シンジはそっと抱くように、量子状態の体でレイを包んだ。

連携を、深く、強く。

力を与える。

命を吹き込む。

--- ・・・碇君・・・ ---

レイから伝わる意識が確かなものになっていくのを感じる。

--- 大丈夫、綾波? ---

シンジに向けるように、笑顔を浮かべるレイ。

その笑顔は、儚げでありながら、強い意志を示していた。

--- いくよ ---

--- うん ---

二人は力を合わせ、左アダムの腕をイメージした。

コアとS2機関を、「壁」に向けて進ませる。

指が触れる間際に、シンジは「壁」のA.T.フィールドに腕が通るほどの穴をあける。

「空間」を発生させるには必要なエネルギーが多過ぎるため、バルディエルの力で腕を伸ばす。

弐号機に、アスカに向かって、シンジとレイは進んだ。

地面に倒れる弐号機へと接近する。

あと少しで届く。

左アダムの手が胸部に到達し、コアとS2機関を埋め込むと、力なく落ちる。

たどり着いた。

次は、弐号機を復活させる。

シンジは自身を分離させ、半分をレイへと残し、もう半分でアスカがいるエントリープラグへと向かった。

量子状態で分離し、しかも、2つの意識で、2つの事を進める。

シンジにとっては、全くの未知。

しかし、シンジはだたひたすらにイメージし、行動に移した。

二人を守りたい。

シンジが心に描いた願いが、具現化する。

コアのレイを包み、アスカのいるエントリープラグへ向かう。

疲労と苦痛が濃くなる。

反して、感覚は徐々にぼやけていく。

それでも、暗闇のエントリープラグの中でも、シンジにはアスカの存在が確かに感じ取れた。

“ アスカ!! ”

プラグ内のシートに肉体の状態で横たわるアスカ。

精神攻撃の影響により、顔は血の気を失い、全身が冷たくなっている。

“ アスカ!! ”

シンジはアスカの体を包むと、エネルギーを送りながら、重ねて名前を呼んだ。

呼吸を感じる。

心臓の鼓動を感じる。

大丈夫、アスカは大丈夫だ。

“ アスカ! お母さんは綾波が守って無事だよ! もう一度会うんだろ、お母さんと! ”

地球で見た涙を思い出す。

アスカの、母を想っての、涙。

少しでも元気づけてあげられたら、と、シンジは声をかけた。

「シ・・ンジ・・・」

アスカの唇が、震えながらも動いた。

“ アスカ・・・ ”

「シンジ・・・、槍・・・見つけた・・・」

“ えっ? ”

シンジはアスカと繋がると、意識を読み取った。

--- 槍は、月にあったの。私、見つけた ---

倒れながらも、アスカは動けぬ体で、自分のすべき事を行なっていた。

地球で見つけられなかった、リリスのロンギヌスの槍。

それは、月にあった。

--- 呼んでるんだけど、なかなか来てくれない ---

アスカの右手が、シンジを求めて動く。

--- シンジ、お願い・・・、助けて・・・ ---

思わず息を呑むシンジ。しかし、次の瞬間、

“ うん、わかった!! ”

右手を両手のかたちで包み、しっかりとアスカに答えを返す。

--- 綾波! ---

レイを包んでいたシンジが呼びかける。

--- うん ---

レイはうなずき、弐号機の操作を進める。

コアとS2機関は無事に弐号機への融合を完了させた。

起動音と共に、エントリープラグが明るさを取り戻す。

これで動く。

なら、立て。

立って、歩け。

ぎこちなくも、弐号機は立ち上がった。

「檻」の、右アダムが立つ場所へと歩を進め、「壁」に両手を突く。

--- 母さん! 父さん! ---

シンジは両親へと呼びかけた。

「壁」越しに見える、初号機の姿。

右アダムの侵蝕は、両腕を肘のあたりにまで進んでいた。

しかし、二人は戦っている。

初号機を奪われぬよう、右アダムを逃さぬよう、ユイが、ゲンドウが、力を合わせて戦っている。

--- 今、槍を呼んでる! もう少しだから! ---

シンジは母と父に向けて叫んだ。

弐号機は、まだ使徒の力を使えるほどの状態ではない。

左アダムを再度操作する余力もない。

残る力は、右アダムに槍を突き刺すために。

その、一点。

だから、早く。

(来い!)

アスカを包んでいたシンジが、槍を呼ぶ。

((来い!))

アスカがシンジに同調し、二人で槍を呼び寄せる。

幸運にも、リリスの槍は弐号機からそう遠く離れていない場所にあった。

コーカサス山脈のふもと、「生命の種」が埋もれていた場所から十数キロの下。

隕石によって運ばれた「黒き月」、その中に入っていた、リリスと、月の「生命の種」、そして、ロンギヌスの槍。

槍は、隕石が地球に衝突した衝撃で、エネルギー体である「種」の中に入り込み、そのまま外へと飛び出した。

そして、地球の破片と共に月を形成する過程において、「種」から抜け出ていた。

((来い!))

くり返される呼びかけに、槍は反応した。

そして、呼びしもののもとへと向かうべく、地を削り、まっすぐに突き進んだ。

((来い!))

地面を飛び出し、主の眼前に姿を現わす。

--- アスカ!! 綾波!! ---

間髪入れず、連携を促すシンジ。

シンジ、アスカ、レイ、三人で弐号機を動かす。

初号機に被害が及ばぬよう、右アダムを横から狙う。

槍を構え、切っ先を向ける。

(くそっ・・・)

右アダムの姿がぼやける。

シンジは意識を失いそうになっていた。

量子状態で分離し、二人を支え、限界まで力を発する。

疲労と苦痛はピークに達していた。

けれど、

倒れるわけにはいかない。

アスカや綾波だって、必死に戦っている。

そして、母さんや父さんも。

 

--- 大丈夫、やれる ---

--- やれるよ ---

 

(お前が言ったんだろ、シンジ!!)

自分に言葉を投げつけ、力の限界を、さらに超えて。

「光の衣」が激しく輝く。

三人の、心の力に呼応する。

“ 行くぞっ!! ”

シンジの号令で、弐号機が槍を突き出す。

寸前に、初号機のユイがA.T.フィールドの出力を下げる。

右アダムの左側から、穴をあけて「壁」を通過する、ロンギヌスの槍。

まっすぐに、右アダムを目指して。

突然、弐号機の腕めがけて、足元からの攻撃が襲った。

操作された、左アダムの腕。

右アダムによる、抵抗。

槍の軌道が右アダムの後方にそれた。

しかし、

--- 任せろ ---

ゲンドウの操作で、初号機からエントリープラグが射出される。

喉もとをプラグが叩き、不意の打撃に右アダムの体が後ろへ傾く。

その顔面を、弐号機の槍が貫いた。

活動の停止が始まる。

侵蝕の力が弱まったのを察知し、ユイが背中の両腕を分離する。

槍の刺さった頭部から、みるみる光を失っていく右アダム。

いまだなにかをつかもうとして宙を泳ぐ手、しかし、それもすぐに弛緩していく。

活動停止の波動は、ユイが分離した両腕を最後として、全身に行き渡った。

そして、

アダムは完全に沈黙した。

 

“ ユイ、あとは頼む ”

“ ええ、ありがとう、ゲンドウ・・・ ”

 

「シンジ!?」 “ 碇君!? ”

自分を包んでいた存在が離れていくのを二人は感じた。

弐号機のエントリープラグ、パイロットシートの傍らに、アスカとレイから離れた光が集まると、肉体に戻ったシンジが横たわった。

「シンジ!」

自身の苦痛も忘れ、アスカはシンジのそばへと近寄った。

コアから移動して来たレイも、シンジのそばに降り、案じるように顔を見つめる。

アスカが抱き起こす体は、ひどく冷たく感じられた。

レイがうかがう顔は、凍える寒さにゆがんでいた。

“ 碇君! ”

「大丈夫・・・だよ、ちょっと疲れただけ・・・」

シンジはわずかに笑みを浮かべた。

「少し寒いけど・・・、寒い・・・けど・・・」

“ 碇君・・・ ”

思わず伸ばすも触れられない手がくやしい。

「レイ!」

アスカもくやしげな表情をして、レイを見る。

温めようにも、自身の体も冷え切っている。

「レイ、私と繋がって! 私のエネルギーをシンジに!」

コアに入れば霊的エネルギーの供給も可能だが、今のシンジに量子状態化は無理だ。

それなら、二人が協力し、レイの力でアスカの霊的エネルギーをシンジへと送れば。

“ わかった、なら私のエネルギーも ”

「あんたは駄目! 私よりダメージくらってんでしょ! なんかもう消えそうになってんじゃないの! あ・・・」

弱っているのに大声を出したため、アスカは崩れ落ちそうになるが、それでも、懸命にこらえる。

「早く・・・、レイ」

“ うん・・・ ”

レイはアスカにうなずいた。

アスカも、ひどく弱っている。

これ以上のエネルギーを失うのは、相当の苦痛だろう。

しかし、自分がアスカの立場だったら、間違いなく、同じ選択をした。

守りたい。

思いは、ただそれだけ。

レイの姿が光の粒となり、アスカの体へ入る。

一体となり、二人でシンジに触れる。

アスカとレイの手が、触れる。

体を抱き、頬を寄せて。

たとえほんの少しでも、温めてあげられたなら・・・。

 

“ 大丈夫みたいね、二人だけで ”

弐号機を見つめながら、ユイは静かに、少しだけ寂しげに、微笑んだ。

 

シンジはぬくもりを感じていた。

温かく、優しく、そして・・・。

いつまでもひたっていたい。

このまま、ずっと。

でも、目を覚まさなければ。

きっと、待っているから。

「シンジ!」

目を開けたシンジに映ったのは、安堵に満ちたアスカの顔だった。

「アスカ・・・」

「大丈夫? 苦しくない?」

「う、うん、大丈夫。アスカこそ、体は?」

「私は平気よ、なんともないわ」

かなり疲れた表情ではあるが、無理をしているわけではないようだ。

「あれ、綾波がいるの?」

ふと、シンジはアスカの中にレイを感じた。

「え、どうしてわかんの?」

「そりゃあわかるよ。・・・なんでわかるのか、わかんないけど」

「さすがにちょっとだけ、まあ私は平気だけど、ちょっとだけ疲れたから、ね」

シンジにエネルギーを分け与えた分、アスカもレイも、別々でいるより一体のままでいる方が良かった。

「支え合ってるってわけだね」

「え、まあ、ウン、そういう事になるっていうか、ちょっと、なに恥ずかしい事言ってんのよ」

「別に恥ずかしくなんかないじゃないか。そのおかげで勝てたんだからさ、僕達」

「うん・・・、そうね・・・」

素直にうなずくアスカに、シンジは微笑む。

「アスカと綾波がいなかったら、みんなで戦わなかったら、アダムに負けてた」

(そうしたら、もう会えなかったかもしれない・・・)

「ありがとう、いてくれて・・・」

「えっ!? そ、そんな・・・」

「アスカも、綾波も」

「え、あ、そうよね、そうでしょうとも、フン」

「え、なにムスッとしてんの?」

「なんでもないわよ!」

「?」

「あっ、レイ、あんた笑ってるわね!? 笑ってんでしょ!」

 

 

そして、

パイロットの回復を待ってから、エヴァ初号機と弐号機は月を発つ準備を始める。

沈黙したアダム2体を、「檻」の中に。

いや、今はもう「檻」ではない、L.C.L.を地球へ無事に運ぶための「カプセル」。

初号機と弐号機が、並んで「カプセル」を支える。

大切な命だ。

慎重に運ばなければ。

ユイは、初号機のコアから地球を見つめていた。

この戦い。

イレギュラーだったのか、それとも、予定されたものだったのか。

どちらにせよ、自分達にとって、大きな糧となった。

「硫黄」と「水銀」の力があったとはいえ、それは、まだ賢者の石となる前の、微々たるものにとどまっていた。

にもかかわらず、得られた勝利。

それは、人の可能性を示すものであった。

心を合わせる。

支えあう。

思う気持ちが、これほどの力となるとは。

“ 待っていて、もうすぐだから・・・ ”

 

 

“ でも、良かった ”

弐号機のコアの中で、レイがポツリと言う。

“ うん、そうだね、みんな無事で、本当に良かった ”

初号機のプラグ内で、シンジがしみじみと言う。

“ え、うん、それも、もちろんそうなんだけど・・・ ”

“ え、どういう事? ”

“ ああ、もうっ、いやんなっちゃう! ”

弐号機のプラグ内で、アスカがうんざりと言う。

“ だ、だから、どういう事なのさ? ”

アスカにはレイの言いたい事がわかっているようだが、シンジはというと、さっぱり。

“ あのねぇ! あんたが言ったんでしょ!? ”

“ は・・・? ”

“ ・・・ ”

“ ・・・ ”

アスカとレイが、じいっと待つ。

“ ・・・はっ! ああっ、そうか!! ”

量子状態でなければ、頭を抱えていたシンジ。

自分から言い出しておいて、うっかり忘れていた。

(馬鹿だな、ホント)

“ 思い出したみたいね ”

“ うん、思い出した! ”

“ ならいいわ ”

満足したように、アスカ。

“ 良かった ”

レイも、嬉しそうな声で言う。

三人の心が、笑みを浮かべる。

かなえられた望みに、喜びは深く。

“ じゃあ、帰ろうか、シンジ ”

“ 帰ろう、碇君 ”

“ うん ”

そして、二人の言葉を受け止めて、シンジは言った。

“ 地球に帰ろう、一緒に・・・ ”

 

 

「The Hermit」 第5話 終わり

 


 

後書き

 

さて、今年2014年は年です。

いやあ、うまくいったと思ったら実は・・・、という、まさに「人間万事塞翁が」な話でしたな(ええ〜っ!?)。

月の下部マントルが熱を発生させているというのは、日本の月周回衛星「かぐや」などが観察した詳細なデータをもとに、計算によって導き出された結果として、今年の7月に発表されました。

さて、
イエス・キリストがゴルゴダの丘で磔にされた際、ローマ兵ロンギヌスは体のどちら側に槍を刺したのか?
調べてみると、聖書にも「脇腹を刺した」としか書いてないし、どうやら「右脇腹」のようなのですが、「左」って説もあって、良くわかりません(ウィキペディアの「聖ロンギヌス」の項目を見ると、文では「左脇腹を」って書いてるのに、その隣に貼ってある絵では・・・、あれ、右じゃない?)。
ただ、キリスト教において「右」は聖なるもの、永遠を象徴しているらしいので、やっぱり「右」かな、と思うのですが(槍を刺した時に目に入ったキリストの血で、ロンギヌスは不自由だった視力が回復したっていうし、神の奇跡を示してるんじゃないかな?)。
なんでこんな事を書いてるのかというと、
キリストは処刑されて3日目に復活しているわけですが、「じゃあ、復活させないように、反対にしよう」って事で。
これでもし間違ってたら、アダムも復活するかも・・・。
あ、それと、弐号機が右アダムの顔に槍を刺したのは、アスカのリベンジって事で。

あと、
頭星雲でなんかないかなって調べてて、
頭星雲がある、オリオン座の中央には2等星の三ツ星(ゼータ星のアルニタク、イプシロン星のアルニラム、デルタ星のミンタカ)が並んでいますが、日本の神話においては、それぞれ底筒男命(ソコツツノオノミコト)、中筒男命(ナカツツノオノミコト)、表筒男命(ウワツツノオノミコト)という神様(住吉三神)とされ、「海の神」として、大阪の住吉大社に祭られています。
で、「海の神」だから地球の海と月の海で戦ったんですね〜、
って思ったら、ユイとゲンドウ忘れてた・・・。

 


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