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※この話はTV版と映画「THE END OF EVANGELION」をベースにしています。
  ベースだから、違うとこもあります。
  映画を見ていない人でもなるべくわかるように書いたつもりです。
  つもりだから、わからなくてもゴメンナサイ。

 

 

使徒は倒された。

第1使徒アダムより生まれし「古きものたち」に勝利し、第2使徒リリスの子である人類は資格を得る。

永遠の命の源たる「生命の実」を、その手にする資格を。

「知恵の実」に加え、「生命の実」をも手にした人類は、地球の支配者たるべく、次の局面へと進むはずだった。

 

しかし、人類補完計画は途上で崩壊する。

 

秘密組織ゼーレが願った結末。

それは、贖罪と新生。

かつて、原罪を背負い、エデンより追放された人間。

あの時よりのち、苦しみや恐怖に数え切れず足をとられながら、よろけて、膝をついて、それでも、長き道のりを歩み続けてきた。

しかし、遂には行き詰まる。

進化は袋小路へと入り、このままでいては、滅びの時をただ迎えるしかない。

だからこそ、ゼーレは死海文書・裏死海文書より見出したシナリオに従った。

罪を償い、救いを得る。

そして、始まりである、ひとつ、「新なるアダム」となる。

実現すべく、ゼーレは膨大な時を費やしてきた。

ひとえに、人類を救うために。

しかし、

彼らの願いは水泡に帰す。

 

特務機関ネルフ総司令、碇ゲンドウは、表向きはゼーレに従いながらも、異なる結末のために動いていた。

不完全な存在である人類を、完全な生物へと進化させる。

それは、欠けた心の補完。

不要な体を捨て、全ての魂をひとつにする。

より強靭たるために。

なによりも、エヴァンゲリオン初号機に眠っていた、碇ユイと再び会うために。

望みへと猛進するあまり、ゲンドウは、あらゆるものを費やし、利用し、さらには他者をも容赦なく犠牲にしてきた。

ひたすらに、自身の思いを目指して。

しかし、

彼の望みは実を結ばなかった。

 

2つの計画は阻止される。

神が差し延べた手に、どちらの手も届く事はなかった。

 

そして、

第3の計画が始まる。

今度こそ、その手につかみ、前へと進むために。

 

 

昇るよ 2012年!記念SS

「The Hermit」 第1話

 

 

「っ?」

かつてより星が多く見える夜空の下、シンジは横たえていた体をわずかに起こした。

「・・・」

ひどく緩慢な動作で、あたりを見渡す。

まだ意識が鮮明ではない。

頭が、心が、働き始めるには、まだ少しの時間を必要としていた。

拒絶するつもりは、もう、ない。

現実を受け入れる事を、この世界で生きる事を、シンジは選択した。

選んだ以上、そのために考え、行動しなければならないのだと、わかってはいた。

けれども、まだ少し、ほんの少しだけ、シンジは休息を必要としていた。

これまで、あまりにも多くの出来事が、14歳の体と心に怒涛のごとく押し寄せた。

強いられた戦いの中、傷つき、裏切られ、自身の弱さを突きつけられる。

そして、たくさんの人達が、自分の前から消えた。

あの人も・・・、あの人も・・・、あの人も・・・、あの人も・・・。

今、ここには、この世界には、誰もいない。

誰も、自分と、彼女以外は。

「・・・」

シンジはゆっくりと立ち上がり、そのまま周囲へと耳を澄ませる。

「・・・」

届くのは、寄せては返す波の音だけ。

規則的なリズムを妨げるものはない。

けれど、聞こえたはずだ。

今さっき、誰かが、自分の名を呼んだ。

なんだか、頭の中に直接響いてくるような、そんな声だった。

「・・・」

シンジは視界の端に、自分の近くで横たわっている彼女を意識した。

まだ、鮮明な姿を目に入れるのは、少なからずためらいがある。

わずか数時間の前、自分が彼女に対して行なった事を思い出し、気まずさが募る。

なにより、確かめるまでもない。

声の主が彼女でない事ははっきりとわかった。

彼女とは違う、別の声だ。

ここには、二人しかいないというのに。

 

 

 

ゼーレとの戦いと、サードインパクト。

全てが終わり、目が覚めると、シンジはこの浜辺に横たわっていた。

そして、隣には、彼女、惣流・アスカ・ラングレーがいた。

二人で、並んで。

これは、他者と生きていく事を望んだ、シンジの選択。

しかし、シンジには戸惑いもあった。

なぜ、アスカが自分の隣にいるのか。

それは、彼女が「選んだ」からなのか。

それとも、ただ「選ばれた」からなのか。

だとしたら、彼女はこの「現実」になんと言うのだろう。

また、同じ事の繰り返し。

同じ苦しみを、繰り返すのか。

「・・・」

恐れが全身にまとわりつく中、シンジはアスカの首を絞めた。

アスカを救えなかった。

救おうともしなかった。

エヴァ弐号機が9体の量産型エヴァシリーズに攻撃されている時も、硬化ベークライトで固められた初号機を前にして、ただうずくまっていただけだ。

心の弱さにがんじがらめにされている自分。

自身で選択して、今、ここにいるというのに。

なのに、恐れを拭い切れない。

結局、自分はそういう人間。

価値も意味もない。

他人にとって、いてもいなくても同じ。

なにも変わらない。

変えられない。

自分は、ただ、そういう人間なのだ。

そう割り切れてしまえば、どんなにか楽だろう。

「くっ・・・う・・・うう・・・」

苦しみの嗚咽が、シンジの口から漏れる。

逃げ出したとしても、もはや、責める者など誰もいなかった。

自身の選択を覆したとしても、

彼女に触れず、彼女から離れて去ったとしても、

それも1つの結末。

結局、碇シンジとは、そういう人間。

ただ、それだけの事だった。

しかし、

シンジは踏み込んだ。

他者への恐怖に抗って、アスカの首へとかけた両手は一線を越える力の寸前で踏みとどまった。

やがて、アスカの、包帯を巻かれた右手が、ゆっくりとシンジの頬へと伸びる。

冷たい指が、そっと、触れる。

「・・・気持ち悪い・・・」

シンジに嫌悪の言葉を投げるアスカ。

恐れと嫌悪。

これまでも、二人が他者と接する際に、最初に胸に落ちていた雫。

人を恐れて、嫌悪して。

けれど、同時に、寂しくて、求めて。

そんな彼らであったからこそ、痛みを伴いながらも、痛みから逃れられない不器用さで、二人は相手に触れた。

求めながらも、首を絞める手。

嫌悪の言葉と共に、頬へと触れる手。

素直にぬくもりを求める、その術を知らずに。

じれったさに、身を焦がしながら。

「く・・・う・・・」

やがて、シンジの中で、ふつふつと怒りが湧き上がっていく。

嫌いだ。

こんな自分が嫌いだ。

こんな自分の、心の弱さが嫌いだ。

これまでずっと、何度も、逃げ出そうとした。

繰り返し・・・、繰り返して・・・。

けれど、逃げ切れたためしなんてなかった。

そして、傷ついて、傷つけて。

ただ、痛みは増し、失うばかり。

いったい、どれだけ同じ苦しみを味わえば気が済むのか。

逃げられるはずはない。

自分の心からは、逃げられない。

だから、それなら、そう。

戦うしかない。

たとえ勝てないとしても、戦うしかないのだ。

もうこれ以上、失うのは、悔やむのは・・・。

「ちくしょう、・・・っ!」

シンジは力任せに、両手をアスカの首から引き剥がした。

そのままの勢いで、アスカの体から離れ、シンジは砂の上に転がる。

強く握りしめた両手は、砂の地面を叩く。

何度も、何度も。

怒りを込めて。

「・・・」

シンジが発する音を、アスカは隣で聞いていた。

湿り気を帯びた砂を叩く、鈍い音が、耳に届く。

それは、不思議と、心臓の鼓動に似ているように、アスカには思えた。

母の胎内で聞いた、心臓の音。

命を届ける、母からの音。

 

“ 死んでは駄目よ・・・ ”

 

ゼーレによって差し向けられた戦略自衛隊から身を守るべく、葛城ミサトの指示によって、アスカは弐号機へと乗せられ、ジオフロント内の地底湖に隠される。

エヴァを動かす事も出来ず、失意と無力感にさいなまれる中、アスカは死への恐怖にただ震えていた。

この時、弐号機の中で、アスカはコアに宿っていた母の声を聞いた。

すぐそばに母がいる。

自分を愛してくれる人が。

アスカは目覚め、9体の量産機が待つ戦場へと向かった。

次々と敵を倒していく弐号機。

休む事なく敵へと向かっていくアスカ。

「シンジの助けなんかいらない!」、そう叫びながら。

しかし、攻撃は止む事を知らず、やがて、アスカは力尽きる。

量産機が群れなして弐号機を食いちぎっていく中、意識が途絶えようとする間際に、アスカは母キョウコと言葉を交わした。

“ アスカ・・・、アスカ・・・ ”

「ママ・・・、私・・・」

“ アスカ・・・、大丈夫よ・・・、大丈夫・・・ ”

「ううん、もう駄目・・・。もう、疲れた・・・」

“ ええ、いいわ・・・。お休みなさい・・・。私が抱いてあげるから・・・ ”

「ママ・・・、温かい・・・」

“ 今はお休みなさい、アスカ・・・。だけど、死んでは駄目・・・。あきらめては駄目・・・ ”

「でも、もう・・・」

“ あなたには、あなたを必要とする人達がいるわ・・・。あなたは、独りじゃない・・・ ”

「そんな事ないわ・・・。私は誰も必要としてこなかった・・・。誰にも負けないようにって、人に刃を向けるばかりで・・・。あいつにだって・・・」

“ ・・・ ”

「助けに来なくって当然よ・・・。私が、助けなんかいらないって言ったんだもの・・・。今までだって、ずっと、馬鹿にしてきたんだもの・・・。私なんて・・・、あいつには・・・」

“ あきらめては駄目よ、アスカ・・・。なにも確かめずに、自分から手放すような真似はしないで・・・ ”

「だって・・・。ごめんなさい、ママ・・・。私が意地を張らなければ、ママをこんな目にあわせなくて済んだのに・・・」

“ いいえ、アスカは悪くないわ・・・。なにも悪くない・・・ ”

「だって・・・、だって・・・」

“ アスカ・・・、私の大切なアスカ・・・ ”

「・・・」

“ あなたを愛する人はいる、私のように・・・。私の他にも、あなたを愛する人がいる・・・ ”

「ママ・・・」

“ アスカ、愛してるわ・・・。ママは、ずっと、いつまでも、あなたを愛してる・・・ ”

「ママ・・・、私も・・・、私も愛してる・・・」

“ だから、あきらめては駄目・・・。死んでは駄目・・・。あなたは、生きなければならない・・・。生きて、幸せになって・・・ ”

「ママ・・・、私・・・、私、本当は・・・」

“ ええ・・・、わかってるわ、アスカ・・・ ”

それは、実際の時間にして、わずか1秒にも満たないものだった。

意識を失うまでの、一瞬の交差。

しかし、これまでの時間を埋め合わせるかのように、キョウコは娘を抱きしめ、アスカは母のぬくもりに身をゆだねた。

そして、

アスカは選択する。

「・・・」

目覚めたアスカは、シンジの隣で、彼が砂の地面を叩く音を聞いていた。

それは、心臓の鼓動にも似て。

生きるものの、発する音に。

見上げた夜空には、驚くほどたくさんの星が、強い光を放っている。

「ママ・・・、私、生きてるよ・・・」

雫が落ちる。

そして、波となって、広がる。

ここから、始まっていく。

今度も、ここから。

その先は、どんな道へと続いているのだろうか。

 

 

 

声が聞こえ、浜辺に立ったシンジは、引き寄せられるように海の方へと足を踏み出した。

進もうとして、ふと、シンジはアスカの方へ顔を向けた。

次の瞬間、心臓が跳ね上がる。

「・・・なに?・・・」

彼女は短くそう言った。

アスカは、横たわった状態のまま、静かな表情でシンジに視線を向けていた。

「いや、その・・・」

シンジは迷った。

アスカが発した声は、ひどくぶっきらぼうに聞こえ、表情が読み取れない。

言葉の意味は、自分が彼女を見た事への非難だろうか、それとも、自分の行動に対する単なる興味なのだろうか。

尋ねられもせず、事態を説明しようかどうかに迷い、結局、

「ちょっと、あっちに」

海を指差して、それだけを言い、シンジは歩き始めた。

「・・・」

アスカがなにか言ったような気がした。

「すぐ戻るから」

相手が望む言葉なのかもわからぬままに、かすれた声を残す。

(戦うんだ・・・、戦わなきゃ・・・)

呪文のように繰り返す。

しかし、そう簡単に全てが変わるはずもない。

情けない思いのまま、シンジは歩く。

そして、そのまま数歩歩くと、波打ち際で立ち止まった。

すぐ近くで寄せては返す波。

今は夜の闇に隠れているものの、その色は、血のように赤い。

かつては人であった魂が眠る、L.C.L.の海。

心の壁が取り払われ、今は、かりそめにひとつとなっている。

そのような場に足を踏み入れるというのは、少なからず罪悪感を抱かせた。

加えて、彼方に見えるもの。

「・・・」

巨大な顔の半分。

それは、綾波レイの顔。

ネルフ本部の最深部、ターミナルドグマに磔となっていたリリスと融合した、レイを写した姿。

 

 

 

ゲンドウは右手に埋め込んだ胎児のアダムと、リリスの魂を持つレイによって、リリスとの融合を果たそうとした。

アダムとリリスの禁じられた融合。

心の壁を解き放ち、不要な体を捨て、全ての魂をひとつに。

そして、ユイの元へ。

しかし、間際になって、レイはゲンドウの望みを拒絶した。

腹部に埋まっていた右手を切断し、ゲンドウから離れ、自身の望みのために、単体でリリスと融合した。

そして、向かう。

自分が守りたいと望む、シンジの元へと。

 

 

 

「・・・綾波・・・」

ふと、この浜辺で目覚めた時、制服姿のレイを見たような気がしたのを、シンジは思い出す。

すぐに消えてしまったが、あれは幻だったのだろうか。

いや、あの時、彼女はここにいたのではないか。

今も、どこかにいるのではないか。

「綾波・・・、ありがとう・・・」

 

 

 

ゼーレの計画の要となった、一人の少年。

ゲンドウとユイの息子、碇シンジ。

彼は、幾多の戦いの中、絶望と恐怖に打ちのめされ、やがて、死を望んでいった。

凍える心で、生きる事を拒絶しようとした。

彼の「意志」を媒介として、人々に「死」が広がっていく。

不死鳥は、蘇るために、己が身を炎で焼き尽くす。

それは、古き肉体を捨てるための通過儀礼。

しかし、ゼーレの思惑は阻まれた。

導きによって、シンジは生きる望みを取り戻す。

安らぎの死よりも、苦しみの生を選択する。

リリスと融合した、綾波レイによって。

そして、

 

(あの時、僕を導いてくれた・・・。綾波・・・、カヲル君・・・、それから・・・、母さん・・・)

 

ユイの魂は、「知恵の実」に加え「生命の実」を得、神に等しい力を持った、エヴァ初号機と共に、はるか宇宙へと旅立って行った。

人が生きたという証を、永遠に残すために。

 

 

 

波打ち際で立ち止まり、海を見つめながら思いに耽るシンジだったが、ふと、背中に感じるものがあった。

それは、視線。

(アスカ・・・?)

続いて、体を起こす気配がする。

シンジの脳裏を、不安がよぎった。

もしかしたら、アスカがこの場から去ろうとしているのでは。

自分を拒絶して、どこかへ行こうとしているのでは。

シンジは、アスカの方へ振り返ろうとした。

その時、

 

キンッッ!!

 

一瞬、目の前が真っ白になった。

「うわっ!?」

続けて、強風が衝撃となってシンジを襲う。

弾かれるようによろけると、シンジは後ろへと倒れ込んだ。

「きゃっ!」

耳元に、驚きの声。

そして、やわらかな感触。

一瞬の間があってから、

「ちょっ、ちょっと、なに触ってんのよ、シンジっ!」

絶叫と共に、シンジは突き飛ばされた。

「わっ、ご、ごめんっ!」

慌てて謝るシンジ。

しかし、心のすみではかすかな安堵を感じていた。

あの頃のような、力強い声。

そして、名前を呼ばれた事。

倒れた拍子に、シンジはアスカの顔と正面から向き合う体勢になった。

目に映る顔は、心なしか、ほのかに赤く、数時間前よりも生気を宿しているように見える。

「あ、あの、ケガ、大丈夫? 痛くない?」

ずっと気になっていた、包帯の巻かれた体を案じ、勢いに任せて一気に言うシンジ。

「な、なに・・・よ・・・」

言いかけたアスカの表情からは、しかし、みるみると力が抜けていった。

呆気に取られた様子で、シンジの肩越しを凝視している。

「・・・え?」

その様子に、シンジはわずか前の出来事を思い出し、慌てて振り返った。

目をやった、海の向こう。

「な・・・」

そして、シンジも、呆然として、そこに浮かぶものを見つめた。

「あ・・・、あれは・・・」

海の上に、目が痛くなるほどの、まばゆい光があった。

巨大な光。

その形は、人の姿をしている。

いや、人ではない。

人ならざりし、畏怖すべき姿。

背中には、4枚の羽が広がる。

「エヴァ・・・」

それは、エヴァンゲリオン初号機の姿だった。

初号機が、光を放ちながら、宙に浮かんでいた。

「・・・母さん・・・」

シンジは立ち上がり、波打ち際まで駆け寄ると、初号機に向けてつぶやいた。

目の前に存在するのが見た通りのものであるならば、あのコアの中にはシンジの母、ユイがいる。

“ そうよ、シンジ ”

頭に響いてくる。

今度こそ、はっきりとわかった。

さっきの声も、今の声も、間違いない。

「母さん!」

シンジは大声で呼んだ。

答えるかのように、初号機は、その巨体には似つかわしくない素早さで、海上からシンジ達のいる浜辺へと、すべるように移動して来た。

ふと、シンジは左腕に鈍い痛みがあるのに気づいた。

目を横へ向けると、いつのまにか、アスカがそばに立っている。

アスカは、我知らず、両手でシンジの左腕につかまっていた。

その瞳は、一心に初号機を見つめ、表情には、驚き、恐怖、不可解、悲しみ、そういった様々な感情が複雑に入り混じっていた。

「・・・」

アスカの混乱が、シンジには痛いほど読み取れた。

シンジは、わずかな躊躇のあと、そっと、アスカの手に自分の右手を重ねた。

「大丈夫」と言いたかったが、シンジ自身、混乱の只中にいる。

母さんは宇宙へと飛び立ったはず。

「さよなら」と、別れを告げた。

再び会えたのは、もちろん嬉しい。

しかし、なぜ?

なぜ、母さんはここにいるのだろう。

やがて、初号機が、シンジとアスカから少し離れた砂浜の上へと降り立った。

最初に現われた時とは対照的に、今度は、砂もほとんど飛び散らないほどの静かさで。

体から発せられる光がおさまり、二人の目には巨大な姿が明確に届く。

“ ただいま、シンジ ”

片膝をつき、顔を二人のそばまで近づけると、初号機が、いや、ユイが言った。

“ それから、初めまして、惣流・アスカ・ラングレーさん。私はシンジの母親の、ユイです ”

アスカの頭の中に声が響く。

「あ・・・、えっと、初めまして、ユイ・・・さん・・・」

どうにかこうにか挨拶を返すアスカだったが、表情を作るまではいかず、いまだに頭の中はゴチャゴチャしていた。

それはそうだろう、この至極女性らしい声の主は、どうやら目の前のいかつい巨人なのだ。

状況は重々承知しているとしても、この不条理さは、やはり、そう簡単には受け入れがたい。

「ね、ねえ、どうしたの、母さん? 母さん、宇宙に行ったはずじゃ・・・」

“ ええ、でもそれは、しなければならない事があったからなの ”

「しなければならない事?」

“ そして、目的のために、私はここへ戻って来た ”

そう言ってから、ユイである初号機は、シンジへと顔を向ける。

“ でも、その前に・・・。また会えて嬉しいわ、シンジ・・・ ”

「うん・・・、僕もだよ、母さん・・・」

しばしの間、ユイはシンジと見つめ合い、それから、今度は海へと顔を向けた。

“ ・・・この海はL.C.L.の海。A.T.フィールドを、心の壁を取り払われた人達の、全ての魂の集合体 ”

「うん、そうだって、綾波が」

そう言った時、シンジは再び左腕に痛みを感じた。

アスカの両手がつかんでいる部分に、今度は、心なしか、さっきよりも鋭く。

意識のすみに残しつつも、シンジは続けてユイの話に耳を傾けた。

“ そして、シンジ、あなたは元の世界を望んだ。一人一人が個々に存在する世界、他人というものが存在する世界 ”

「う、うん、でも・・・」

シンジは左手を握りしめる。

込められた力の強さが、アスカの手にも伝わってくる。

「僕は、どうしたらいいんだろう。このまま、ただ待っていればいいのかな」

あの時、綾波は言った。

自らの心で自分自身をイメージ出来れば、誰もが人のかたちに戻れる、と。

しかし、数時間経った今も、変化どころか兆しすらない。

このまま待っていれば、いつか、人々は戻ってくるのだろうか。

何日後か、あるいは、何年か。

それまでの間、自分は、ただ待つしかないのか。

「でも、そんなの、嫌だ」

自分に出来る事はないのか。

あるのなら、やらなければならない。

もう、なにもしないで不安に怯えているのも、流されるままに後悔するのも、嫌だ。

“ シンジ、それに、アスカさん ”

ユイは二人に語りかけた。

“ あなた達にはすべき事があるわ。あなた達の手で、この人達を元のかたちに戻すの ”

「僕と、アスカで・・・」

“ そう、そして、人類を次の段階へとシフトさせる ”

「次の段階?」

“ ただ元に戻すだけでは駄目なの。今のままでは、人は弱過ぎる。心の弱さゆえに、結局、滅びの道を逃れる事は出来ない ”

「・・・」

“ そして、これが残された最後の機会。人類は、今こそ、前へと進まなければならない ”

「・・・」

“ そのために、あなた達の力が必要なの ”

すべき事がある。

ならば、やらなければいけない。

もちろん、それについて迷いなどない。

けれど、アスカはどうだろう。

アスカは、自分と一緒にやってくれるだろうか。

シンジは思わずアスカを見た。

すると、

「バカ」

アスカがピシャリと叩くように言った。

「こうなったら、やるしかないじゃない」

そう言って、まっすぐにシンジを見つめる。

口元が、ほんのかすかに、笑みを浮かべているように見える。

その瞬間、シンジの全身に力が湧いてきた。

「うん、やろう」

力強く答えてから、シンジはユイを見上げた。

「教えて、母さん。僕達は、なにをすればいいの?」

“ ありがとう、シンジ。ありがとう、アスカさん ”

ユイは万感の思いで言った。

計画が始まる。

選ばれし者達の、自らの意志によって。

今度こそ、人類は前へと進む。

ヒトとして、ヒトを超えたものとして。

“ 人を元のかたちに戻し、人類を次の段階へと進ませる・・・ ”

続けて、ユイはシンジとアスカに言った。

“ そのために必要なのが、賢者の石よ ”

「「賢者の石?」」

シンジとアスカが声をそろえる。

「え、えっと・・・」

シンジは、なんとなく拍子抜けがした。

賢者の石といえば、アニメや漫画などによく出てくる、あれの事だろうか。

不老不死だとか、万能の薬だとか、とにかく、魔法の類いのアイテムなのでは?

「あの・・・、ユイさん?」

アスカがおずおずと問いかける。

「賢者の石って、あれですよね? 卑金属から貴金属を生み出すっていう・・・。それから、不老不死だとか、万能の薬だとか・・・、なんかもう、なんでもアリって感じの・・・」

シンジが思っているのと同じ事を口にするアスカ。

“ そうね、そんな力があるなんて言われてもきたわね ”

ユイが笑いを含ませた声で言う。

“ でも、実際のところ、賢者の石とは、人の心の力を増幅させるためのものなの ”

「心の力?」

“ ええ、心の力が強くなれば、そのイメージによって、自身を新たな存在へと生まれ変わらせる事が出来る。それだけじゃない、世界だって変える事が出来るのよ ”

「世界も・・・」

“ そう、人も世界も、心が作っている・・・ ”

ここまで言って、ユイは遂に笑い声をもらした。

“ ふふっ、魔法の世界の話みたいに思ってるのね、アスカさん? でも、極度に発達した科学は魔法と区別がつかないって言うでしょ? ”

そして、初号機が自分を指差す。

“ だいたい、魔法みたいな存在が、ホラ、ここに ”

「ああ・・・」

「ああ・・・」

とたんに、アスカもシンジもすっかり納得がいったのであった。

“ それじゃあ、さっそく始めましょう。まずは材料の入手から ”

悠久の長きに渡り、あまたの錬金術師達が、賢者の石を生み出すべく研究を続けてきた。

しかし、明確な製法が記された文献の類いは、これまで1つも存在していない。

それは、彼らの徹底した秘密主義による。

そもそもの始まりは、太古の昔、何者かが残した詩篇であった。

隠喩や象徴で彩られた言葉は、目にする者に様々な解釈をもたらした。

錬金術師達は、自分こそが扉を開く最初の人間となるべく、また、研究内容を他者に知られる事を恐れ、たとえヒントとなり得る欠片さえも触れさせぬようにと、森の奥や地下など、人目につかない場所へと隠れ、実験用の器具までも自らの手で作るという徹底ぶりで、極秘の研究に明け暮れた。

研究内容を記す場合も、関係者にしかわからぬよう、物語や絵の中に、やはり、隠喩や暗号の形で忍ばせた。

加えて、長い時の中でオリジナルが失われ、断片や粗悪な複製のみが残されているものも多く、さらには、外国語に置き換えたものも、訳者による意訳となるため、これら様々が混迷に拍車をかける。

ゆえに、千の情報あらば十万の解釈あり。

結局、実際に賢者の石を手にした人間は、今まで、1人もいなかった。

しかし、石を生み出せなかった最大の理由とは、製法が不明な事ではない。

数限りない探求は、ほのかな光とはいえ、扉を開ける鍵のありかを少しずつ照らしていき、事実、鍵を手にした者も、数えるほどのわずかではあるが、存在した。

しかし、扉を開ける事は叶わず、それどころか、扉に近づく事さえも、結局は出来なかった。

真実を知っていたとしても、それだけでは足りない。

問題の第一は、材料の入手にあったのだ。

これは、与えられた試練。

「知恵の実」を持つ人間が、己が力によって果たすべき、契約。

そして、それは、選ばれし者達の手によって。

シンジとアスカを前に、ユイは材料についての説明を始めた。

“ あなた達には、これから、必要な材料を入手して来てもらいたいの ”

「材料って、いったい、なんなの?」

シンジの問いに、ユイは答える。

“ 賢者の石に必要な材料。それは、「硫黄」と「水銀」よ ”

「え、硫黄と水銀?」

シンジは再び拍子抜けした。

「硫黄と水銀が材料って、あの、そんなのでいいの?」

色や光の三原色と同様に、錬金術において全ての物質は「三原質」で構成されており、これらとは「硫黄」と「水銀」、そして、二つを結びつけるための「塩」である。

“ といっても、この二つの物質そのものが賢者の石になる、というわけではないの。十字架、空飛ぶほうき、パワーストーンやお守りの類いと同じようなものね。それら自体は、力を蓄え、放出するための装置に過ぎない ”

「へえ、そうなんだ」

“ それに、もちろん、その辺に転がってるようなのじゃあ駄目なのよ? ”

「純化された「硫黄」と「水銀」、ですよね?」

“ あら、さすがはアスカさん、よくご存知ね ”

「いえ、ほんのちょっと読みかじっただけです」

ユイの言葉に、小さく笑みを返すアスカ。

一方のシンジといえば、まだ、なにがなにやら。

「純化された、って、どういう事? 不純物が混ざってないっていう意味?」

“ それもあるけど、それだけじゃないわ ”

ユイは説明を加えた。

“ もちろん、不純物のないものを使うというのは、第一にして絶対の前提。でなければ、賢者の石は生まれない ”

たとえば、

パソコンや携帯電話、時計など、様々な電子機器には「水晶振動子」という部品が使われている。

これは、高い精度で特定の信号を安定して発振し続けるための装置「水晶発振器」に用いられるもので、狂いが生じないよう、高純度の結晶である事が求められる。

そのため、不純物やひび割れがないよう、専用の機械によって人工的に結晶化したもの(合成水晶)を使用する。

というようなわけなのである。

“ でも、物質的な純化というのは、それほど難しい作業じゃない。大変なのは、もう一つの、霊的な純化の方 ”

「霊的?」

“ 錬金術師は、この世界の物質が、貴金属と卑金属といった具合に、完全で健康なものと不完全で不健康なものに分けられると考えていたの。そのため、不完全な物質である硫黄と水銀は、完全な物質にするための作業が必要となる ”

「出来るの、そんな事?」

シンジが興味深げに尋ねる。

“ 彼らの中では、完全な物質である金から硫黄を、銀から水銀を取り出すべし、なんて解釈していた人が多かったみたいね ”

「でも、金から硫黄だなんて、そんなの、出来るわけが」

アスカの言葉に、ユイもうなずく。

“ そうね、その辺は彼らもかなり苦労してたみたい。でも、彼らが導き出したものにも、たとえ断片であったにせよ、真実は存在していた。残念ながら、実際は、考え方が逆だったのだけど ”

「逆? それって、どういう意味ですか?」

“ つまり、金や銀から取り出すのではなく、「金」や「銀」を加えて、その力で純化するのよ ”

ユイは言葉を続けた。

“ といっても、金属の金や銀を混ぜる、という意味ではないわ。この場合の「金」、「銀」というのは、つまりは象徴の意味をもって示されている ”

「「象徴?」」

“ 昔から、「金」は太陽、「銀」は月を象徴していた。太陽神アポロは金の馬車、月の女神ディアナは銀の馬車に乗って、空を駆ける ”

「「・・・」」

“ つまり、「硫黄」は「金」、太陽の力を、そして、「水銀」は「銀」、月の力をもって純化を成す、というわけ ”

「という事は、硫黄を太陽の光に、水銀を月の光に照らして、とかそんな感じですか?」

“ ほとんど正解。でも、あと一歩が必要 ”

ここまで言うと、ユイである初号機は、静かに空を見上げた。

“ 彼らの限界は、地球という場に捕らわれていた事 ”

空には、無数の星が瞬いている。

広大なる宇宙。

広大なる世界。

“ たとえ真実を見つけたとしても、当時の人々には不可能だった。知恵の力が、技術が、まだ追いついてはいなかったから ”

シンジとアスカも、空を見上げる。

ユイの見る先には、いったい、なにがあるというのだろう。

“ なぜ、過去の錬金術師達が賢者の石を生み出せなかったのか、その第一の理由。それは、材料が手の届かない所にあったから ”

そして、二人に視線を戻すと、ユイは言った。

“ というわけで、シンジには水星、アスカさんには月に行ってもらいます ”

「「はぁ!?」」

“ 地球に存在する硫黄と水銀では、太陽と月、どちらが発する力も、充分には届いていない ”

「「そ、それで・・・?」」

“ つまり、太陽に最も近い、太陽の力を最も多く受けている水星から「硫黄」を、そして、月本体から「水銀」を採取して来て欲しいの ”

「ぼ、僕が水星に!?」

「私が月に!?」

“ ええ、そうよ ”

「「どうやって!?」」

確かに、水星の岩石には地球の10倍以上もの硫黄が含まれている。

また、水星には大気がほとんどなく、非常に薄い外気圏しか存在しないため、太陽からの力をダイレクトに受け取っている。

そして、月面には水銀が存在している。

なるほど、必要な材料は、確かに水星と月なのだろう。

だが、どうやって?

対して、ユイは事もなげに言う。

“ もちろん、エヴァに乗って行くのよ。シンジは私と、そして・・・ ”

わずかの間、ユイはアスカを見つめ、それから、立ち上がった。

そして、海に背を向け、広げた両手を前へと伸ばした。

“ ・・・ ”

再び強く輝き出す初号機。

光が、両手の先へと集まる。

初号機と対称となる形で、指が、手が、復元されていく。

みるみるうちに、腕が、肩が、頭が。

「あ・・・ああ・・・・」

アスカの目が驚愕に見開かれる。

胸が、胴が、足が。

やがて、それは、エヴァ弐号機の姿となった。

「ママ!?」

シンジの左腕につかまっていた両手を離し、アスカは母へと駆け寄った。

「ママ!? ママっ!!」

ゼーレの放った刺客、9体の量産機によって、無残に食いちぎられた弐号機。

しかし、アスカの前に立っているのは、全てを取り戻した、以前のままの姿だった。

「ママっ!! ママっ!!」

“ アスカさん、落ち着いて。あなたのお母さんは生きているわ、大丈夫 ”

「でもっ!」

答えが返らない事に、不安を抑えられないアスカ。

対して、ユイは静かな声で言った。

“ キョウコさんは、今は深い眠りについているの。あまりにも傷つき過ぎたから・・・。そして、あなたを守るために、残りの力を全て使った・・・ ”

「・・・ママ・・・」

守ってくれた。

ママは、私を守ってくれた。

愛してる、と、言ってくれた・・・。

アスカは弐号機の足にすがるようにして、人目もはばからずに泣いた。

「ママ・・・、ありがとう・・・、ごめんね・・・」

涙が次から次へと流れる。

これまでの想いが、あふれて。

「・・・」

アスカの姿を、静かに見つめていたシンジ。

やがて、その目は、強い意志を宿す。

「母さん」

シンジはユイに向けて尋ねた。

「賢者の石を使って、アスカのお母さんを目覚めさせる事は出来るんでしょ?」

自身の決意を示すように、シンジはユイへとまなざしを送る。

「シンジ・・・」

アスカはシンジを見つめ、次に、祈るような思いでユイを見た。

シンジの言葉に、ユイはうなずく。

“ ええ、出来るわ、もちろん。それだけじゃなく、キョウコさんを元の人の姿に戻す事も ”

そして、ユイはアスカに向けて告げる。

“ 賢者の石の力と、お母さんの目覚めを願う、アスカさん、あなたの想いがあれば ”

「ママが・・・、帰って来る・・・」

“ アスカさん、今度は、あなたがお母さんを救ってあげる番よ ”

「う・・・ううっ・・・」

アスカは顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をこぼした。

まだ、伝えたい事が山ほどある。

もっと、もっと、言いたい事が。

今までずっと、したくても出来なかった事が。

アスカは力強く目をぬぐった。

涙なんか、流している時じゃない。

すべき事が、あるのなら。

「今度こそ、私が救ってみせる」

アスカの、決意に輝く瞳を見届けてから、ユイはシンジへと視線を送った。

シンジも黙ってうなずく。

そうだ、今度こそ。

これは、自分自身の決意。

これからを、自分自身が、生きるために。

ふと、アスカはシンジに気づき、頬に残る涙をぬぐいながら言った。

「な、なに泣いてんのよ、男のくせに・・・」

「え?」

言われてから、シンジは自分も涙を流しているのに気づいた。

しかし、それは、これまで流してきたのとは違う、熱さをもった涙だった。

「泣いてる暇なんかないんだからね。あんたにも、がんばってもらわなきゃなんないんだから」

力強い足取りで近づき、アスカは、勢いをつけて、シンジの腕を右手で叩いた。

さっきまでつかまっていた、シンジの左腕を。

「うん、もちろん」

シンジも、力強く言葉を返す。

「・・・」

視線を受け、アスカは、少しの間、動かずにいた。

シンジの左腕に、自分の右手を置いたまま。

しかし、迷いの末に手を離すと、きびすを返し、足早にシンジから距離を置いた。

「・・・」

シンジに背を向け、なにやら小さくつぶやくアスカ。

「アスカ?」

挙動不審なアスカに、シンジは呼びかける。

すると、アスカは頭を勢い良く振ると、再びきびすを返して、再びシンジの方を向いた。

「と、とにかく!」

なにやら苛立った様子で、握りしめた右のこぶしを振りながら、アスカは言った。

「が・・・、がんばんなさいよ!?」

「う、うん」

「わ・・・」

「?」

「・・・」

それきり、アスカは口を開けたまま、妙な沈黙が漂う。

“ あの、それでね、アスカさん? ”

「あ、は、はい・・・」

熱くなっている頬を、涙をぬぐうふりで隠しながら、アスカは答えた。

“ あなたには月へ行ってもらうのだけど、キョウコさんが眠っているので、今現在、弐号機とあなたはシンクロが出来ない状態なの ”

「え、でも、じゃあ、どうやって・・・?」

“ そこで、あなたには、シンクロを可能とするためのサポートをつけるわ ”

ここから、始まっていく。

また、新たに。

「サポート、って?」

アスカの問いに対し、ユイは二人の後方へと目をやり、そして、言った。

“ そろそろ出て来なさい、レイ ”

 

 

「The Hermit」 第1話 終わり

 


 

後書き

さて、今年2012年は年です。

「辰」といえば、古代中国において「星」と呼ばれていたのが「水星」。
水星の表面に大量の硫黄(とマグネシウム)が存在する事は、今年の9月、NASAの無人探査機「メッセンジャー」から送られたデータによって判明しました(「メッセンジャー」って名前、もしかしたら、ホルストの組曲「惑星」の「水星 〜翼を持つ使いの神(The Winged Messenger)〜」から取ったんだろうか)。
ところで、錬金術や占星術において、実際は水星の方が水銀を象徴しているのですが、まあ、うにゃむにゃ。

それから、東洋の龍の絵や彫刻を見ると、よく手に玉を持っていますよね。長崎くんちで行われる龍踊(じゃおどり)でも、龍が玉を追いかける様子が見られます。
で、あの玉は、太陽や月を表わしていて、宇宙の強大な力を象徴しているんだそうです。

さて、「賢者の石」で有名なのが、コリン・ウィルソンの小説で、タイトルもそのものズバリ「賢者の石」。
この作品では怪奇作家H・P・ラヴクラフトの作品について言及されているのですが、ラヴクラフトといえば「クトゥルー神話」が有名で、クトゥルーといえば日本語で「九頭
」なんて書かれたりしますね(でもって、第3新東京市のある箱根にあるのが「九頭神社(くずりゅうじんじゃ)」)。

最後に、錬金術について書いてある内容は、あくまでも僕の「意訳」ですので、間違ってても寛大な気持ちでよろしく。

 


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