「うあああっ!!」
マコトは、あまりの驚愕に叫んだ。
輸送機後部の初号機を、目も眩むほどの光が直撃したのだ。
激しい衝撃と熱が初号機を襲う。
D型装備の装甲は、見る見るうちに、その曲線を歪ませていく。
マコトの中で、様々な思考が攪拌(かくはん)され、その全てが形をとどめない。
「くうっ!」
荒ぐ息を必死で抑えようと、マコトは強く胸を叩いた。
抑まる事のない、死への恐怖。
しかし、その喚起の源となる生への渇望が、マコトを奮い起こす。
(死んでたまるか!!)
マコトの思考が、1つの強い意志に収束した時、出現と同様の唐突さで、光が消えた。
「じょ・・・、状況は!?」
マコトは、震える声で、コックピットに呼び掛けた。
しかし、返るものはノイズしかない。
「くっ!」
マコトは、通信を無線から有線に切り替えた。
途端に、2人のパイロットの叫ぶ声が響く。
「第3、第4エンジン破損!!」
「コントロ−ルが効かない!! このままじゃ、墜落するぞ!!」
EVANGELION MM
「そんな・・・、そんな事が出来るなんて・・・」
リツコは愕然として、ノイズに覆われたメインモニタを睨み続けていた。
初号機を撃った光。
それは、使徒の放った加粒子砲だった。
確かに、輸送機は、使徒の攻撃の届かない『BLIND SPOT』内にいた。しかし、使徒は自らの力を最大限に活かして、初号機を襲ったのだ。
それは、
「A.T.フィールド・・・」
位相空間により、あらゆる物理的攻撃を跳ね返す、絶対の盾。
使徒は、空間が歪むほどの強力なA.T.フィールドを発生させ、自らの加粒子砲を初号機に向けて反射させたのだ。
そして、雷は、驚くほどの正確さで、初号機を直撃した。
リツコは、展開されたA.T.フィールドが斜めに傾いている事に気付き、その角度から、使徒の意図を知った。しかし、時遅く、加粒子砲は初号機に向けて発射され、その影響から、中央作戦室発令所のモニタは、その機能を麻痺させられていた。
「通信の回復は!?」
「あと3分掛かります!!」
「急いで!!」
リツコは震える手を強く握り締めながら叫んだ。
なにも映さないモニタ。
これほど怖いものはない。
D型装備の胸部は、そのほとんどが融解していたものの、初号機自体の被害は軽微だった。
それは、D型装備の守りに加え、加粒子砲の出力が、強力なA.T.フィールドの展開によって半減していたためだった。
しかし、それでも、輸送機への影響は深刻極まりなかった。
エンジンは4基の内2基が破損。しかも、コントロールも効かず、初号機切り離しのためにかなりの低速度で飛行していた輸送機は、すでに失速寸前の状態だった。
「脱出出来るか!?」
「はい! 手動で、どうにかいけそうです!」
マコトの問いに、メインパイロットが返す。
輸送機のコックピットは、それ自体が緊急時の脱出用ポッドとなっており、翼と備え付けのブースタによって、距離にして30km程度の飛行も可能だった。
しかし、あとに続いたサブパイロットの報告が、更なる窮地を告げる。
「ロックボルトに異常! 初号機、切り離し出来ません!!」
「なんだって!?」
マコトは、慌ててドッキングアウトのスィッチを入れてみたが、やはり、なんの反応も見られない。使徒の攻撃により、輸送機と初号機をつなぐロックボルトは作動不能に陥っていた。
そして、不運は重なる。
「くそっ! なんてこった!」
使徒の加粒子砲から初号機を守ってくれたD型装備が、今度は仇となった。加粒子砲の熱によって前面部が融解した結果、腕が充分に上げられなくなり、自力で外そうにも、ロックボルトに手が届かない。しかも、装備自体の解除も行なえず、パレットライフルで破壊しようにも、使徒の攻撃を受けた時の衝撃で、ライフルは初号機の手を離れていた。
このままでは、初号機は輸送機と共に墜落を余儀なくされる。
マコトの背中を冷や汗が伝った。
「なんとか態勢を立て直してみます!」
「エンジンの出力さえ上げられれば!」
とどまろうとするパイロット達。
「馬鹿!! 早く脱出しろ!!」
「いいえ! これが我々の任務です!」
「まだ、大丈夫です!」
2人は、頑なに、操作を続けた。
なにも出来ずにいる自分に、マコトの焦燥が募る。
「いったい、どうしたら・・・」
必死に打開策を模索しようにも、焦りで思考は空回りしていた。
苛立ちの中、マコトの脳裏にマヤの顔が浮かぶ。
悲しげな表情。
その顔を濡らす涙は、切ない連鎖を引き起こす。
背中の痕に触れる指。
海で交わした約束。
「また、守れないのか・・・」
マヤの言葉が、マコトの胸に、悲しく響いては消えていく。
『もう・・・、知ってる人がいなくなるのは、嫌・・・』
『だから! もう、無茶はしないで! なによりも生きる事を・・・。私もがんばるから・・・、お願い・・・』
『あの時・・・、日向君が落ちて来るのを見た時・・・、私、怖かった・・・。死んじゃうんじゃないかって・・・、すごく、怖かった・・・』
「!!」
その時、マコトは見つけた。
過去の記憶に隠れていた、生還へのヒントを。
「イチかバチか・・・、やるしかない!」
即座に意を決して、マコトはパイロット達に叫んだ。
「エンジンを切って脱出してくれ! 俺に考えがあるんだ!」
「え!?」
「A.T.フィールドをクッションにして着地する!」
先の第4使徒との戦いで、零号機は、遥か上空から落下する初号機を、A.T.フィールドで受け止めた。
(もし、俺にも出来るなら、あるいは・・・)
「無茶です! そんな!」
「しかし、その方が助かる確率は高い!」
「しかし・・・」
「頼む、急いでくれ! グズグズしてたら、また攻撃されるかもしれない! 今の俺には君達まで守る余裕がないんだ!」
「は、はい!!」
マコトの激しい声に、パイロット達はようやく頷き、脱出の準備を進める。
「フォースト・イジェクション(強制射出)、カウントダウン入ります! 5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・Good luck!!」
マコトへの激励を最後に、2人のパイロットを乗せたポッドは、輸送機から離脱した。
その軌跡を見つめながら、マコトは言った。
「ありがとう」
そして、マコトは地上に目を移し、自分の帰りを待っている者へ、決意の言葉を送った。
「待っててくれ。約束は、必ず守るから」
第13話
MIRROR 中編
「どうして・・・」
初号機が攻撃を受けてしばらくののち、マヤは、信じられない思いで、その言葉を発した。
空に展開する、マヤが最も恐れた光景。
海で見た同じ雲に混じる黒煙。
墜落する輸送機。
守ると決めた人が、今、正に、死に瀕(ひん)しようとしている。
「日向君!!」
マヤは、マコトを受け止めるべく、輸送機の落下地点へ向かって走った。
(守ってみせる、私が!!)
しかし、その時、マヤの目に、輸送機から射出される脱出用ポッドが映った。
「!!」
マヤは立ち止まり、過酷な選択に迷った。
万が一にも、ポッドが攻撃を受けないために、使徒の目を地上に引き付けておかなければならない。リツコとの連絡が不通となり、12式自走臼砲の稼動が当てにならない以上、それは、マヤがしなければならない事だった。
しかし、それでは、マコトを見捨てる事になってしまう。
人の命を天秤にかける。
マヤには、決して割り切れる事ではなかった。
「どうしたら・・・」
苦しい思いで、輸送機とポッドを交互に見やるマヤ。
「!?」
その時、マヤは奇妙な事に気付いた。
「え?」
ポッドのライトが点滅している。しかも、その点滅は、あるパターンを繰り返していた。
「あれは・・・」
マヤは、ライトの発する信号を読み取った。
それは、3つのアルファベット。
「A・・・T・・・F・・・。まさか、日向君!?」
ポッドからのメッセージにより、マヤはマコトの意図を知った。
まだ、マコトは諦めてはいない。
マヤは心を決めた。
「・・・約束、守るって、言ってくれたよね? 日向君・・・」
次の瞬間、マヤは第5使徒へと向かった。
零号機を走らせながら、パレットライフルを連射する。
盾を持ち、走りながらの射撃。
涙でにじむ照準。
「ごめんなさい・・・、ごめんなさい、日向君・・・」
狙いの定まらぬ弾を、マヤは撃ち続けた。
「よし、このまま・・・」
マコトは、迫る地面を睨みながら、祈るように言った。
刻々と近付く第3新東京市。
輸送機が降下する地点には、兵装ビルが建ち並んでいた。
上手くビルの上に落下出来れば、ビルが衝撃を吸収してくれるため、生還の確率は高くなる。
しかし、生と死は隣り合わせにあった。
輸送機の落下予想地点は、使徒から600mと離れてはいなかった。
問題となるのは、着地後の輸送機と初号機の分離。
それについて、マコトには1つの考えがあった。いや、考えというにはあまりに心許ないものだったが、今はそれに懸けるしかなかった。
「大丈夫、いける!」
自分を励ますように、マコトは叫んだ。
そして、使徒の向こうに見える零号機、そのパイロットに思いを馳せた。
使徒に1人立ち向かい、慣れない銃を撃つマヤ。
対する使徒は、防御する気配もなく、悠然と浮かんでいる。
まるで、なにかを待っているかのように。
使徒の沈黙の理由がなんであれ、マヤに攻撃が及ばない事が、マコトにはありがたかった。
「伊吹さんには手を出すなよ! お前は俺が倒すんだから!」
しかし、そう言いながらも、マコトは、自分の足が震えているのを感じていた。
マヤを守りたいという気持ち、使徒への怒り、そして、それらに負けない程に強く湧き上がる感情。
死への恐怖。
(くそっ! なんで、こんなに怖いんだ!)
マコト自身にも理解出来ない、あまりの感情の強さ。
それは、生きていたいという望みから。
死して離れる事への悲しさから。
再び会いたい人がいる。
だから、死ねない。
だから、恐怖は力となる。
(約束したんだ、伊吹さんと!!)
ビルの屋上が間近に迫り、マコトは力を込めて叫んだ。
生きるために。
「A.T.フィールド全開!!」
中央作戦室発令所、その回復したメインモニタが最初に映し出したのは、ビルに向かって降下しようとしている輸送機の姿だった。
「っ!!」
息を飲むリツコ。
しかし、それは、驚嘆を含むものであった。
輸送機の後部、初号機を中心として展開されるA.T.フィールドは、その強大さによって、初号機のみならず、輸送機の全体をも覆っていた。
「これなら・・・」
リツコは小さくつぶやくと、オペレータに向けて、次の確認を急いだ。
「零号機は!?」
「使徒から4kmのポイントで、使徒を攻撃中! 機体、その他に損傷は見られません!」
即座に、オペレータが答える。
その報告は、1つの脅威を示していた。
使徒は初号機を狙っている。
そして、確実に仕留めるため、次は最大出力で仕掛けて来るに違いない。
「自走臼砲へのアクセスは!?」
「回復しています!」
「急いで零号機の援護を!」
リツコは早口で指示を出す。
しかし、リツコの背後から、それを制する声がした。
「その必要はない」
「え!?」
リツコは振り返り、司令席を見上げた。
そこには2人の男が静かに立っていた。
「碇司令・・・」
リツコの目に映るゲンドウの顔は、普段と変わらぬ、不敵な自信に満ちていた。
「・・・よろしいのですか?」
リツコの問いに、ゲンドウは沈黙で答え、隣に立つ冬月も、穏やかな表情を浮かべるだけだった。
「・・・」
リツコは、眉をひそめながらも頷いた。
「し、しかし、それでは!」
オペレータの1人、青葉シゲルが立ち上がる。
他のオペレータたちも、ゲンドウの意図を計り知れずに、騒めいた。
対してゲンドウは、静かな声のまま、シゲルに確認する。
「サーチ衛星のモニタ状況は?」
「あ、は、はい! 作戦開始時から現在までの様子は全て記録されています!」
「そうか。ならば、いい・・・」
それ以上を語ろうとしないゲンドウに代わって、冬月がオペレータ達に告げる。
「エヴァ零号機、初号機の援護をしてはならない。これは、命令だ」
「でも、副司令!」
なおも食い下がるシゲル。
しかし、冬月は、静かにシゲルを制する。
「これは、今後の戦いの行方を左右する重大な試練なのだ。彼等が自身の力で乗り越えられなければ、我々にも未来はない。辛いとは思うが、そう心得てくれ」
冬月の言葉に抗議の声を失うシゲル他オペレータ達。
リツコも、不安な気持ちを隠すかのように目を伏せる。
そして、彼等の背後のメインモニタでは、今、正に、輸送機がビルへ衝突しようとしていた。
轟音と突風を携えて、輸送機は兵装ビルの屋上へと降り立った。
初号機のA.T.フィールドは、触れるビルを粉々に砕いていく。
「ぐうううっ!!」
マコトは、歯を食いしばって、衝撃に耐えた。
周囲に飛び散る破片。
ビルを押し潰しながら、地面へと降下する輸送機。
激しく揺れるコックピットで、マコトの意識も途絶えそうになる。
しかし、ここで気を失う訳にはいかない。
ただ着地するだけでは意味を成さない。
「くっ!!」
マコトは血が出るほど唇を噛み締めた。
そして、更なる衝撃に身構えつつ、マコトはA.T.フィールドを閉じた。
途端に、ビルの破片が輸送機を襲う。
マコトの狙い通りに。
輸送機の残存燃料は、排出孔付近に火災が発生していたため、捨てる事が出来ずにいた。ビルの破片が燃料タンクに穴を空ければ、爆発によってロックボルトを破壊出来るかもしれない。当然、破片そのものが上手くロックボルトを破壊してくれれば、被害は少なくて済む。
あまりにも厳しい賭けに、マコトは託した。
(約束したんだ!)
(生きて帰る!)
(そう約束した!!)
(伊吹さんと!!)
マコトは朦朧となりながらも、懸命に耐え続けた。
やがて、輸送機は地上へと降り、周囲は静けさを取り戻す。
「はあっ、はあっ、はあっ」
乱れる息のまま、マコトは初号機を動かそうと試みた。
しかし、
「ちくしょう・・・」
マコトの腕から力が抜けていった。
動かない初号機。
縛る鎖は、未だ断ち切られずにいた。
強固な輸送機の装甲は、本来であれば望まれる形で、自らの身を守っていた。
しかし、この状況。
輸送機はちょうど使徒に腹を向ける形で横たわり、ロックボルトの外れないままに、初号機は身動きが取れない。
マコトは、絶対の危機的状況へと、その身を置く事になってしまった。
マコトが見上げた先には、使徒が浮かんでいる。
その中央部には、攻撃の意志を示す光が走る。
「約束、守れなかった・・・」
マコトは、もはや成すすべなく、ただ光を眺めるしかなかった。
「伊吹さん、ごめん・・・」
マコトがつぶやいた直後、使徒の加粒子砲が、最大出力で初号機に放たれた。
「日向君!!」
「!!」
自分を呼ぶ声がする。
マコトの意識は急速に引き戻された。
そして、目の前の光景に、マコトは愕然とする。
「ちくしょう!!」
灼熱の光を受け止めて、初号機の前に立つ零号機。
マコトを守るため、マヤは使徒の前に立ちはだかっていた。
「伊吹さん!!」
最大出力の加粒子砲は、零号機の持つ盾を見る見る融解させていく。
「駄目だ、伊吹さん!! 逃げろ!!」
マコトは声の限りに叫んだ。
「ロックボルトが外れないんだ!! だから、君だけでも!!」
「嫌!!」
涙混じりの声で、マヤが叫ぶ。
「そんな事出来ない!!」
「伊吹さん!!」
すでに盾はその役を果たしておらず、零号機の頭部や腕にも、加粒子砲の牙が及んでいた。
「頼む、伊吹さん、逃げてくれ!!」
マコトは必死に叫んだ。
しかし、マヤはマコトの願いに答えようとはせず、代わりに掠れる声で言った。
「日向君・・・動かないでね・・・」
そして、マヤは盾を投げ捨てた。
「!!」
そのまま、零号機は使徒に背を向けた。
その背中を、容赦なく加粒子砲が襲う。
「あああっ!!」
「伊吹さん!!」
「う・・・、動か・・・ないで・・・」
初号機と向かい合う零号機。
その手はパレットライフルを構えていた。
マヤは、背中を焼く高熱に気が遠くなりつつも、必死に初号機の頭上に狙いを定め、トリガを引いた。
零号機の撃った弾は、ロックボルトとD型装備のジョイント部を破壊していく。
そして、自由になった初号機を確認すると、マヤは安堵と共に意識を失った。
「逃げて、日向君・・・」
「馬鹿野郎!!」
マコトは、即座にD型装備を引き剥がすと、零号機に向かって走った。
「くっ!!」
零号機にタックルする初号機。
突き飛ばされた零号機は初号機と共に地面を転がり、そのそばでは加粒子砲が地面をえぐった。
「伊吹さん!!」
マコトは、必死にマヤに呼び掛ける。
零号機の背中は第3装甲まで融解しており、エントリープラグにもかなりの被害が予想された。
「伊吹さん!!」
「う・・・」
「しっかりしろ、伊吹さん!!」
「日向君・・・、日向君・・・、逃げて・・・」
マコトの呼び掛けに、マヤはうわごとのようにつぶやくだけだった。
「伊吹さん!!」
「・・・」
「伊吹さん!!」
「・・・」
「くっ・・・」
マコトの心の中を、怒りが支配していく。
「ちくしょう・・・」
死もかえりみずに自分を守ろうとしたマヤへの怒り。
「ちくしょう・・・」
マヤにそうまでさせてしまった自分への怒り。
「ちくしょう・・・」
そして、その全ての元凶への怒り。
「ちくしょう!!」
マコトは使徒を睨み付けた。
その強大な姿も、
再び放たれんとしている光も、
怒りに支配されたマコトの心に恐怖を生み出す力など、持ってはいなかった。
「よくも・・・」
マコトの意志が1つに収束する。
「よくも・・・」
この世界、人類の未来。
そんなものはどうでもいい。
「よくも・・・」
今は、ただ、目の前の敵を叩きのめしたい。
それだけが、マコトの全てだった。
「よくも、伊吹さんを!!」
力の発現。
その結果としての行動。
冷静な思考であれば、あり得ないとの答えしか出ない。
しかし、初号機は、マコトはそれを行なった。
エヴァ専用輸送機。
その巨大な機体は、初号機によって持ち上げられた。
初号機は頭上よりも高く輸送機を持ち上げ、そして、使徒に向けて投げ付けた。
放物線を描く事なく、真っ直ぐに使徒へと飛ばされる輸送機。
避ける間もなく、正面から衝突する使徒。
さしもの輸送機も、その体は大きく2つに折れ、引火した燃料が大きな爆発を起こす。
その衝撃は、使徒の体を大きく傾けた。
「うおおおおっ!!」
間髪を入れずに、初号機は、そばに転がるパレットライフルを拾うと、そのまま使徒へと突進する。移動速度は理論値を遥かに超えた。
ものの数秒で使徒に接近すると、初号機は使徒の中央部目掛けて飛んだ。
光をたたえ、今にも初号機を食らおうと待ち構える使徒。
しかし、初号機の反応速度は、加粒子砲の発射よりも速く、ライフルの照準を使徒のコアへと合わせた。
「くたばれ!!」
使徒に怒りをぶちまけ、マコトはトリガを引いた。
「っ!?」
しかし、その反応は極めて簡素なものだった。
作動しないパレットライフル。
「た、弾が!?」
マコトが状況を把握するよりも速く、使徒は加粒子砲を発射した。
至近距離からの加粒子砲の攻撃により、初号機の持つパレットライフルは、一瞬で蒸発した。
そして、光は、そのまま初号機を貫いた。
第13話 MIRROR 中編 終わり